【1080・第5話】再会 #小説・パラレル

「誰だ、あんた」
「義兄弟が現代に転生したら」を(ガチで)ふみちゃんと考えてみた
→マジで書いてみた、という暴走の産物です。
・
六月某日。都内某所。
スクランブル交差点の上。商業ビル半面を占める大型モニターに、臨時のテロップが流れた。
「【速報】I県T市の爆発物製造工場で大規模な爆発。建物は全壊。三十二人が死亡、または行方不明ー」
行き交う人々が足を止め、スマホに指を走らせる。視界の端にそれらを収めながら、風五郎は車内のディスプレイに目をやる。
十三時二十分。打合せの開始まで四十分。三十分前に到着し周辺を下見。二十分前から会場の準備。十分前には完了。いつも通りだ。
信号が青に変わり、軽くアクセルを踏む。昼過ぎの道は混み合い、流れは悪い。そのことに少し安堵している自分がいる。
「大臣視察の件で、事前調整に行ってきます」
舟波に告げて執務室を出てから、何となく身体が重い。ありふれた業務にも関わらず。理由は分かっている。あいつがいるからだ。
「だから、何だ」
敢えて呟く。誰がいようと、やることは同じだ。だが。
ハンドルがみしりと音を立てた。緩めた手のひらが汗ばんでいる。溜め息を吐き、目を閉じる。ふいに遠い日の景色が浮かぶ。
白い部屋。包帯。点滴。青みを帯びた黒い瞳。
そして。
ー誰だ、あんた。
耳に蘇る、その一言。
払うように頭を振り、前方に目を凝らす。住宅街の中に聳え立つ、白い巨塔。七星病院。都内有数の大病院。そして、今のあいつの居場所。
「だから、何だ」
任務をこなす。大臣を守る。やるべきことは、それだけだ。
・
七星病院の大会議室には、ざっと五十人ほどが集まっていた。いつもと顔ぶれが違う。見るからに医療従事者ではない、厳つい男達が過半数を占める。八俣警察署、もしくは警視庁警備部の人間だ。
半月後に迫った、大臣視察の打合せ。
院長の一貫は正面横の席につき、スライドーいや、傍らに立つ男を眺めていた。壬生風五郎。警視庁から来た、警察側の責任者だ。
壬生は院内図を指し、当日の道程を説明している。話が上手い。分かり易く、ユーモアもある。声が良く、抑揚も利いている。皆が熱心に聞き入っている。
警察らしくない、と一貫は思う。話しぶりだけではない。外見もそうだ。
身体は逞しい。並外れて大柄で、よく引き締まっている。だが顔はどうだ。垂れ眉に垂れ目、柔らかな面立ちは保育士のようだ。だがー。
壬生の話は続く。メモを取りながら一貫は思う。何も起こるまい。この国で要人の襲撃など滅多に起きない。起きたとしても、この男ならば。
「一人で組一つを壊滅させた、警視庁の巨象だ」
少し前に、知人の警備部OBから聞いた話を思い出す。
巨象、なのかもしれない。優しげな眼差しに、言いようのない重みを感じる。目が合うと、背筋が粟立つ。
口元に微笑を浮かべ、職員の問いに答える。そんな壬生を眺め、一貫はペンを握る手が汗ばむのを感じた。
・
「壬生さん。お疲れ様です」
午後三時三十分。
打合せを終えて荷物を片付けていると、声を掛けられた。見れば男が一人。すらりと伸びた背筋、上品な顔立ち。この病院の院長、赤池一貫。
ー写真より優男だ。
一つの記事を思い出す。ビジネス誌の巻頭特集だった。「七星病院、V字回復の軌跡」という見出しで、立役者である赤池の半生と現在が描かれていた。
幼い頃に父母が他界し、先代院長である伯父の元で育つ。外科医として他院に勤めるも、経営難を苦に伯父が自殺。三十二歳で院長に就任すると、一年で赤字を解消し、二年で七星を都内有数の大病院に押し上げた。
脚色はあるもの、と話半分に読んでいた。だがー。
会議中の様子を思い返す。主催者は自分だった。だが病院側の責任者である赤池にも、多くの質問が飛んだ。
その全てに、彼は淀みなく答えた。部下に尋ねず、資料すら見ずに。常に院内の全てを把握し、管理している。これほどの大病院で。
「いえ、そちらこそ。病院は常に多忙でしょう」
「まあ、そうですね。ですが視察対応も大事な仕事ですから」
微笑を浮かべて赤池が言う。視察に難色を示す者が多い中、有り難いと思う。だが何なのか、身体が強ばる。
ー視られている。
そんな気がする。一挙一動も、胸の内までも。
警護対象者にまれにいる。一度会うだけで他人の人格を見抜き、巧みに取り込み、利用する。「政界のフィクサー」や「黒幕」と呼ばれる人種だ。
断定はできないが、纏う空気が似ている。ならば長居は無用、むしろ危険だ。
「では、当日はよろしくお願いいたします」
一礼して踵を返し、一歩踏み出した。そのときだった。
人が入ってきた。若い男だ。白衣に皺が寄っている。仮眠明けの医師か、と顔に目をやり、息が止まった。
切れ長の目。通った鼻筋。薄い唇。端正だがどこか冷たい。見知った、ではない、知っていた顔だ。胸の名札を見るまでもない。
男の目が風五郎を捉える。だがそれも一瞬で、すぐ赤池に移る。そして歩み寄り、
「部屋の空調が動かない。何とかしろ」
噛み付くような口調。上司、しかも院長への態度ではない。だが赤池は口の端を上げ、薄く笑い、
「分かった。総務部に伝えておく」
「⋯早くしろ」
言うだけ言って気が済んだのか。男は肩を落とし、踵を返す。だが。
「待て」
赤池の呼びかけに、男が振り返る。顰め面を隠しもしない。構わず赤池は続ける。
「その襟」
言って男の襟元を指す。左襟が内側に折れている。
それがどうした、と言いたげに男が赤池を睨む。だが彼は怯まず、すっと襟元に手を伸ばした。
男は動かない。じっと赤池を眺めている。身を引くことも、振り払うこともなく。よく見ると隈が濃い。疲労が溜まっているのか。いや、そんなことより。
赤池の指が、男の首に触れる。
ーその刹那。
身体が勝手に動いた。気づけば腕を上げ、赤池の手首を掴んでいた。
赤池が手を止め、こちらを見る。責めるでもなく、問うような視線。答えなど思いつかない。何も言えず、手も離せず、その視線を受け止める。
そのときだった。ピリリ、と軽い電子音が鳴った。男の白衣のポケットからだ。
案の定、男が無造作に手を突っ込み、端末を取り出し耳に当てる。やがて「今行く」とだけ言うと、足早に廊下に向かった。だが。
去り際の、ほんの一瞬。男が振り返り、目が合った。感情の読み取れない目。あの日と全く同じー。
男がふいと目を逸らし、廊下へと消える。すると自然と手が解けた。
「失礼しました」
赤池に向き直り、頭を下げた。相手は手首を回し、軽く首を振る。微笑んでいるが、目は笑っていない。おそらく自分も同じだ。
「面倒見が良いのですね」
小石を投げたつもりだった。だが相手の方が上手だった。
「あれは、うちの大事な医者ですから」
流される。だが食い下がる。
「うちの、とは」
その一言に、ほんの少しだけ、相手の瞳が揺れた気がした。だがそれも一瞬で、赤池は軽く肩を竦め「さて?」とそらとぼけて見せた。
これ以上は不毛だ。軽く息を吐き、足早に歩く。逃れるように出た廊下には、もう誰もいなかった。畳む

「誰だ、あんた」
「義兄弟が現代に転生したら」を(ガチで)ふみちゃんと考えてみた
→マジで書いてみた、という暴走の産物です。
・
六月某日。都内某所。
スクランブル交差点の上。商業ビル半面を占める大型モニターに、臨時のテロップが流れた。
「【速報】I県T市の爆発物製造工場で大規模な爆発。建物は全壊。三十二人が死亡、または行方不明ー」
行き交う人々が足を止め、スマホに指を走らせる。視界の端にそれらを収めながら、風五郎は車内のディスプレイに目をやる。
十三時二十分。打合せの開始まで四十分。三十分前に到着し周辺を下見。二十分前から会場の準備。十分前には完了。いつも通りだ。
信号が青に変わり、軽くアクセルを踏む。昼過ぎの道は混み合い、流れは悪い。そのことに少し安堵している自分がいる。
「大臣視察の件で、事前調整に行ってきます」
舟波に告げて執務室を出てから、何となく身体が重い。ありふれた業務にも関わらず。理由は分かっている。あいつがいるからだ。
「だから、何だ」
敢えて呟く。誰がいようと、やることは同じだ。だが。
ハンドルがみしりと音を立てた。緩めた手のひらが汗ばんでいる。溜め息を吐き、目を閉じる。ふいに遠い日の景色が浮かぶ。
白い部屋。包帯。点滴。青みを帯びた黒い瞳。
そして。
ー誰だ、あんた。
耳に蘇る、その一言。
払うように頭を振り、前方に目を凝らす。住宅街の中に聳え立つ、白い巨塔。七星病院。都内有数の大病院。そして、今のあいつの居場所。
「だから、何だ」
任務をこなす。大臣を守る。やるべきことは、それだけだ。
・
七星病院の大会議室には、ざっと五十人ほどが集まっていた。いつもと顔ぶれが違う。見るからに医療従事者ではない、厳つい男達が過半数を占める。八俣警察署、もしくは警視庁警備部の人間だ。
半月後に迫った、大臣視察の打合せ。
院長の一貫は正面横の席につき、スライドーいや、傍らに立つ男を眺めていた。壬生風五郎。警視庁から来た、警察側の責任者だ。
壬生は院内図を指し、当日の道程を説明している。話が上手い。分かり易く、ユーモアもある。声が良く、抑揚も利いている。皆が熱心に聞き入っている。
警察らしくない、と一貫は思う。話しぶりだけではない。外見もそうだ。
身体は逞しい。並外れて大柄で、よく引き締まっている。だが顔はどうだ。垂れ眉に垂れ目、柔らかな面立ちは保育士のようだ。だがー。
壬生の話は続く。メモを取りながら一貫は思う。何も起こるまい。この国で要人の襲撃など滅多に起きない。起きたとしても、この男ならば。
「一人で組一つを壊滅させた、警視庁の巨象だ」
少し前に、知人の警備部OBから聞いた話を思い出す。
巨象、なのかもしれない。優しげな眼差しに、言いようのない重みを感じる。目が合うと、背筋が粟立つ。
口元に微笑を浮かべ、職員の問いに答える。そんな壬生を眺め、一貫はペンを握る手が汗ばむのを感じた。
・
「壬生さん。お疲れ様です」
午後三時三十分。
打合せを終えて荷物を片付けていると、声を掛けられた。見れば男が一人。すらりと伸びた背筋、上品な顔立ち。この病院の院長、赤池一貫。
ー写真より優男だ。
一つの記事を思い出す。ビジネス誌の巻頭特集だった。「七星病院、V字回復の軌跡」という見出しで、立役者である赤池の半生と現在が描かれていた。
幼い頃に父母が他界し、先代院長である伯父の元で育つ。外科医として他院に勤めるも、経営難を苦に伯父が自殺。三十二歳で院長に就任すると、一年で赤字を解消し、二年で七星を都内有数の大病院に押し上げた。
脚色はあるもの、と話半分に読んでいた。だがー。
会議中の様子を思い返す。主催者は自分だった。だが病院側の責任者である赤池にも、多くの質問が飛んだ。
その全てに、彼は淀みなく答えた。部下に尋ねず、資料すら見ずに。常に院内の全てを把握し、管理している。これほどの大病院で。
「いえ、そちらこそ。病院は常に多忙でしょう」
「まあ、そうですね。ですが視察対応も大事な仕事ですから」
微笑を浮かべて赤池が言う。視察に難色を示す者が多い中、有り難いと思う。だが何なのか、身体が強ばる。
ー視られている。
そんな気がする。一挙一動も、胸の内までも。
警護対象者にまれにいる。一度会うだけで他人の人格を見抜き、巧みに取り込み、利用する。「政界のフィクサー」や「黒幕」と呼ばれる人種だ。
断定はできないが、纏う空気が似ている。ならば長居は無用、むしろ危険だ。
「では、当日はよろしくお願いいたします」
一礼して踵を返し、一歩踏み出した。そのときだった。
人が入ってきた。若い男だ。白衣に皺が寄っている。仮眠明けの医師か、と顔に目をやり、息が止まった。
切れ長の目。通った鼻筋。薄い唇。端正だがどこか冷たい。見知った、ではない、知っていた顔だ。胸の名札を見るまでもない。
男の目が風五郎を捉える。だがそれも一瞬で、すぐ赤池に移る。そして歩み寄り、
「部屋の空調が動かない。何とかしろ」
噛み付くような口調。上司、しかも院長への態度ではない。だが赤池は口の端を上げ、薄く笑い、
「分かった。総務部に伝えておく」
「⋯早くしろ」
言うだけ言って気が済んだのか。男は肩を落とし、踵を返す。だが。
「待て」
赤池の呼びかけに、男が振り返る。顰め面を隠しもしない。構わず赤池は続ける。
「その襟」
言って男の襟元を指す。左襟が内側に折れている。
それがどうした、と言いたげに男が赤池を睨む。だが彼は怯まず、すっと襟元に手を伸ばした。
男は動かない。じっと赤池を眺めている。身を引くことも、振り払うこともなく。よく見ると隈が濃い。疲労が溜まっているのか。いや、そんなことより。
赤池の指が、男の首に触れる。
ーその刹那。
身体が勝手に動いた。気づけば腕を上げ、赤池の手首を掴んでいた。
赤池が手を止め、こちらを見る。責めるでもなく、問うような視線。答えなど思いつかない。何も言えず、手も離せず、その視線を受け止める。
そのときだった。ピリリ、と軽い電子音が鳴った。男の白衣のポケットからだ。
案の定、男が無造作に手を突っ込み、端末を取り出し耳に当てる。やがて「今行く」とだけ言うと、足早に廊下に向かった。だが。
去り際の、ほんの一瞬。男が振り返り、目が合った。感情の読み取れない目。あの日と全く同じー。
男がふいと目を逸らし、廊下へと消える。すると自然と手が解けた。
「失礼しました」
赤池に向き直り、頭を下げた。相手は手首を回し、軽く首を振る。微笑んでいるが、目は笑っていない。おそらく自分も同じだ。
「面倒見が良いのですね」
小石を投げたつもりだった。だが相手の方が上手だった。
「あれは、うちの大事な医者ですから」
流される。だが食い下がる。
「うちの、とは」
その一言に、ほんの少しだけ、相手の瞳が揺れた気がした。だがそれも一瞬で、赤池は軽く肩を竦め「さて?」とそらとぼけて見せた。
これ以上は不毛だ。軽く息を吐き、足早に歩く。逃れるように出た廊下には、もう誰もいなかった。畳む
【1080・第4話】営業と医者 #小説・パラレル
「なんだ、あんたか」
「義兄弟が現代に転生したら」を(ガチで)ふみちゃんと考えてみた
→マジで書いてみた、という暴走の産物です。
・
六月某日。
「午後二時をお知らせします」
ラジオの時報を耳に、愁二郎は車を停めた。ダイハツのミライース。ありふれた営業車だ。エンジンを切り、顔を上げる。百台は収まる駐車場の先に、巨大な建物が見える。
ー七星病院。
都内で有数の総合病院。病床は五百。地上十階、地下一階建ての建物は、恰も「白い巨塔」だ。
頂を見上げ、ごくりと唾を呑む。何度も訪れているが、その度に気が張る。
軽く頭を振り、助手席の鞄を取る。点検用の器具が入っており、ずしりと重い。
抱えるように持ち、車を降りる。入口に向かって歩きながら、改めて建物を仰ぐ。窓に人影が映る。外の景色を眺める老人。立ち回る看護師。
ふいに、一人の姿が思い浮かぶ。
ー今日は、会えるだろうか。
院内で何度か見かけた白衣の青年。名は知らない。医師、あるいは研修医。均整の取れた身体つきに、端正な顔立ち。一言で美形。
だが何より強く惹かれるのは、言いようのない「淡さ」だ。
白衣を揺らし、明るいパステルイエローの廊下を歩く。その姿はふっと掻き消えてしまいそうで、一度目に入ると否応なく追ってしまう。
淡い、引力。
ー何なんだろうな、あれは。
軽く首を振り、入口に立つ。自動ドアが開き、冷えた空気が頬を撫でた。
ーまずは仕事だ。
鞄を握る手に力を込め、愁二郎はドアを潜った。
・
病院の一角。北棟の廊下を一貫は歩いていた。大病院の院長が、珍しく一人。彼を見るなり擦り寄ってくる内科部長も、息を呑んで直立する研修医もいない。
人気のない廊下を足早に進む。行先は院内の最北の部屋。かつては病室だったが、やがて物置に、今は個人の居室になっている。
部屋の前に着く。ノックもなくドアを引き開けた。
広さは八畳ほど。治療用のベッドのほか、机と椅子、棚とテレビ。カーテンは全て閉じられ、室内は暗い。
ごくありふれた病室。だが、いるのは病人ではない。
一歩踏み込んだ、そのときだった。ベッドが揺れた。寝ていた人物が身を起こしたのだ。相手はさらに身構える。だが入口に一貫の姿を認めると、
「何だ、あんたか」
それだけを言い、また身を沈めた。
一貫は息を吐き、ベッドに歩み寄る。そして布団を掴み、一気に引き剥がした。
横たわる全身が露わになる。皺の寄ったシャツとスラックス。手術着でないだけましか。
「飯を食え、風呂に入れ、そして着替えろ」
一息に言う。だが案の定、相手は「うるさい」と呟き、壁に向かって寝返りを打った。髪が流れ、形の良い耳が覗く。一貫は一瞬だけ目を落とし、すぐに外した。
「四蔵」
名を呼ぶが、反応はない。肩に手を置き、軽く揺する。続けていると、堪えかねたように身を起こし、机を指した。黄色の箱と銀色のパック。カロリーメイトとヴィダーinゼリー。どちらも空だ。
「食った」
文句あるか、とでも言いたげだ。二十を過ぎているが、まるで子どもだ。
「あんなもの、食ったうちに入るか」
声を強めて言う。だが相手も引かない。布団を引き寄せながら、憎々しげに返す。
「食うより寝たい。今日も三時から二件ある」
二件、とは手術だ。胃全摘、そして直腸切断。いずれも高難度。所要時間は三から五時間。三時から二件は厳しい。だが、この男に限っては別だ。
ー化野四蔵。七星病院きっての「天才外科医」。
研修医として入った時点で、すでに異物だった。とにかく手術が上手い。どこで身につけたのか。正確無比、かつ迅速。しかも常に冷静で、何が起ころうと眉一つ動かさない。
「化野ってやつは、とんだ怪物らしい」
始めは部内の噂だった。それが院内に広まったのは、ある腸閉塞の手術。
術中、担当医が倒れた。当然、手術は中止だ。だが開いた腹は閉じなければならない。看護師が他の医師を呼びに出ようとした、そのとき。
「手術は続ける。俺がやる」
四蔵がメスを取り、そして終わらせた。三時間の予定を、一時間で。
以後、彼の扱いは一変した。助手など論外。研修中に中難度を一通りこなさせ、その後は高難度、いっそ超難度ばかりを任せている。失敗は、一度もない。
今や噂は院外に及ぶ。「ぜひ手術を」と患者が押し寄せ、結果、負担が四蔵に集中している。
自覚も、負い目もある。だから院長である自分が、こうして様子を見に来ている。
「二時になったら起きる」
四蔵が布団を引き上げる。その手首を一貫は掴んだ。柔らかく、だが強く。
「しつこ」
言い切る前に、一貫は動いた。空いていた手を伸ばし、右頬に添える。四蔵が身を引こうとする。だが逃さない。顔を寄せ、覗き込む。
青みを帯びた黒の瞳。薄い桜色の唇。無防備に曝された、それらの輪郭をなぞりかけた自分に気づき、一貫は手を離した。
その隙に四蔵が布団を引く。とにかく寝たいらしい。
一つ息を吐き、一貫は言う。
「お前は、うちの大事な医者だ。倒れられては困る」
噓ではない。だが、それだけではない。
それだけなら、他の医師を抑えて副部長に据え、院内に私室を与え、日に何度も様子を見に来たりはしない。
ーお前は、うちの、大事な医者。
胸中で繰り返し、口元が歪む。
何ともまあ、白々しいことだ。畳む
「なんだ、あんたか」
「義兄弟が現代に転生したら」を(ガチで)ふみちゃんと考えてみた
→マジで書いてみた、という暴走の産物です。
・
六月某日。
「午後二時をお知らせします」
ラジオの時報を耳に、愁二郎は車を停めた。ダイハツのミライース。ありふれた営業車だ。エンジンを切り、顔を上げる。百台は収まる駐車場の先に、巨大な建物が見える。
ー七星病院。
都内で有数の総合病院。病床は五百。地上十階、地下一階建ての建物は、恰も「白い巨塔」だ。
頂を見上げ、ごくりと唾を呑む。何度も訪れているが、その度に気が張る。
軽く頭を振り、助手席の鞄を取る。点検用の器具が入っており、ずしりと重い。
抱えるように持ち、車を降りる。入口に向かって歩きながら、改めて建物を仰ぐ。窓に人影が映る。外の景色を眺める老人。立ち回る看護師。
ふいに、一人の姿が思い浮かぶ。
ー今日は、会えるだろうか。
院内で何度か見かけた白衣の青年。名は知らない。医師、あるいは研修医。均整の取れた身体つきに、端正な顔立ち。一言で美形。
だが何より強く惹かれるのは、言いようのない「淡さ」だ。
白衣を揺らし、明るいパステルイエローの廊下を歩く。その姿はふっと掻き消えてしまいそうで、一度目に入ると否応なく追ってしまう。
淡い、引力。
ー何なんだろうな、あれは。
軽く首を振り、入口に立つ。自動ドアが開き、冷えた空気が頬を撫でた。
ーまずは仕事だ。
鞄を握る手に力を込め、愁二郎はドアを潜った。
・
病院の一角。北棟の廊下を一貫は歩いていた。大病院の院長が、珍しく一人。彼を見るなり擦り寄ってくる内科部長も、息を呑んで直立する研修医もいない。
人気のない廊下を足早に進む。行先は院内の最北の部屋。かつては病室だったが、やがて物置に、今は個人の居室になっている。
部屋の前に着く。ノックもなくドアを引き開けた。
広さは八畳ほど。治療用のベッドのほか、机と椅子、棚とテレビ。カーテンは全て閉じられ、室内は暗い。
ごくありふれた病室。だが、いるのは病人ではない。
一歩踏み込んだ、そのときだった。ベッドが揺れた。寝ていた人物が身を起こしたのだ。相手はさらに身構える。だが入口に一貫の姿を認めると、
「何だ、あんたか」
それだけを言い、また身を沈めた。
一貫は息を吐き、ベッドに歩み寄る。そして布団を掴み、一気に引き剥がした。
横たわる全身が露わになる。皺の寄ったシャツとスラックス。手術着でないだけましか。
「飯を食え、風呂に入れ、そして着替えろ」
一息に言う。だが案の定、相手は「うるさい」と呟き、壁に向かって寝返りを打った。髪が流れ、形の良い耳が覗く。一貫は一瞬だけ目を落とし、すぐに外した。
「四蔵」
名を呼ぶが、反応はない。肩に手を置き、軽く揺する。続けていると、堪えかねたように身を起こし、机を指した。黄色の箱と銀色のパック。カロリーメイトとヴィダーinゼリー。どちらも空だ。
「食った」
文句あるか、とでも言いたげだ。二十を過ぎているが、まるで子どもだ。
「あんなもの、食ったうちに入るか」
声を強めて言う。だが相手も引かない。布団を引き寄せながら、憎々しげに返す。
「食うより寝たい。今日も三時から二件ある」
二件、とは手術だ。胃全摘、そして直腸切断。いずれも高難度。所要時間は三から五時間。三時から二件は厳しい。だが、この男に限っては別だ。
ー化野四蔵。七星病院きっての「天才外科医」。
研修医として入った時点で、すでに異物だった。とにかく手術が上手い。どこで身につけたのか。正確無比、かつ迅速。しかも常に冷静で、何が起ころうと眉一つ動かさない。
「化野ってやつは、とんだ怪物らしい」
始めは部内の噂だった。それが院内に広まったのは、ある腸閉塞の手術。
術中、担当医が倒れた。当然、手術は中止だ。だが開いた腹は閉じなければならない。看護師が他の医師を呼びに出ようとした、そのとき。
「手術は続ける。俺がやる」
四蔵がメスを取り、そして終わらせた。三時間の予定を、一時間で。
以後、彼の扱いは一変した。助手など論外。研修中に中難度を一通りこなさせ、その後は高難度、いっそ超難度ばかりを任せている。失敗は、一度もない。
今や噂は院外に及ぶ。「ぜひ手術を」と患者が押し寄せ、結果、負担が四蔵に集中している。
自覚も、負い目もある。だから院長である自分が、こうして様子を見に来ている。
「二時になったら起きる」
四蔵が布団を引き上げる。その手首を一貫は掴んだ。柔らかく、だが強く。
「しつこ」
言い切る前に、一貫は動いた。空いていた手を伸ばし、右頬に添える。四蔵が身を引こうとする。だが逃さない。顔を寄せ、覗き込む。
青みを帯びた黒の瞳。薄い桜色の唇。無防備に曝された、それらの輪郭をなぞりかけた自分に気づき、一貫は手を離した。
その隙に四蔵が布団を引く。とにかく寝たいらしい。
一つ息を吐き、一貫は言う。
「お前は、うちの大事な医者だ。倒れられては困る」
噓ではない。だが、それだけではない。
それだけなら、他の医師を抑えて副部長に据え、院内に私室を与え、日に何度も様子を見に来たりはしない。
ーお前は、うちの、大事な医者。
胸中で繰り返し、口元が歪む。
何ともまあ、白々しいことだ。畳む
【1080・第3話】教師と寿司屋 #小説・パラレル
「大将、今日は何かあるのか?」
「義兄弟が現代に転生したら」を(ガチで)ふみちゃんと考えてみた
→マジで書いてみた、という暴走の産物です。
・
放課後の職員室は、今日は穏やかだった。
子ども達の声は消えた。「先生」の顔を止めた大人達が、気の抜けた様子でパソコンに向かっている。
その片隅で、烏丸七弥は机の上のプリントを整え、小さく息を吐いた。九九が並ぶ、算数のミニテストの採点。これで今日の仕事は終わりだ。
「体育館の件、落ち着いてよかったですね」
隣の席から声が掛かる。顔を上げると、同じ学年の担任がこちらを見ていた。
秋津楓。すっと伸びた背すじに涼やかな目元。凛々しい雰囲気を纏った美人だ。実は薙刀の有段者で、かなりの腕前らしい。
「ええ、本当に」
七弥が頷くと、楓は頬を緩めた。例の件については、彼女も気を揉んでいた。七弥自身、思い出すと胸の奥が苦くなる。
ー体育館の幽霊。
塾帰り生徒が、窓に映る人影を見た。ボールの跳ねる音を聞いた。
ー体育館には幽霊が出る。
噂はすぐ広まった。どうせ何かの見間違い、聞き間違い、のはずだった。
だが事態は一変した。幽霊を見た生徒の一人が車道に飛び出し、撥ねられたのだ。怪我は軽かったが、それで十分だった。
ー幽霊を見たら呪われる。
特に慄いたのは幽霊を見た生徒だった。体育、ひいては学校すら休む者が出始めた。一通りの調査を行うも、幽霊の正体は掴めずじまい。欠席者は増える一方だった。
外部、警察に協力を仰ぐべきでは。そう七弥は呼びかけた。だが校長以下の腰は重く「警察は相手にしない」「しばらく様子を見るべきだ」と落ち着いた。
休みが続くほど、学校に来るのは難しくなる。何より恐怖に震える生徒達のことを思うと、只管にもどかしい。
そんな中、一本の電話が入った。
「八俣小学校ですか?俺、蹴上甚六って言います」
軽薄な口調に身構えた。案の定、相手はユーチューバー、生徒の間で人気の「甚六探偵の事件簿」なる動画の投稿者、とのこと。
「体育館の幽霊」を動画にするつもりか。
「貴方には関係ない」
吐き捨て、電話を切ろうとした。だが次の一言で心が動いた。
「動画にはしねえよ。もちろん報酬もいらねえ」
甚六いわく、生徒の一人が彼に「友達を助けて欲しい」とメッセージを送ったのだという。
「そいつな。「友達まで幽霊になっちゃう」って泣いてた」
その後、本人に事情を聞いた。
甚六の話は本当だった。彼の友人は、事故に遭った生徒だった。
事故を機に不登校になった友人に、彼は毎日プリントを届け、やつれていく姿を目の当たりにした。日ごとに頬が削げ、目が落ち窪み、生気を失っていく。
「学校に来なくてもいい。でも、死んでほしくなくて」
勝手に連絡してごめんなさい。泣いて謝る生徒の背中を、七弥は擦り続けた。
そしてその日のうちに、甚六に連絡を取った。「調査を頼めないか」と。
彼は快く受けた。だが七弥は喜べなかった。まだ疑っていたのだ。
「何か裏はないか」
聞いた七弥に、甚六は笑った。
「子どもが泣いてんだぞ。あんたが俺でも、きっとそうする」
校長に直談判し、何とか調査の許可を得た。
三日後にやってきた「甚六探偵」は、とにかく怪しかった。黒のスウェットにサングラス。緑のメッシュの入った金髪。
連れの女も派手だった。腿も露わなショートパンツに、鈍器の如くごついブーツ。
だが見た目を裏切り、仕事はまともだった。物々しい機器を用いて現場を調べた後、教師や生徒の話を聞いて回った。
ー体育館の幽霊は、消えた。
半月が経った頃、そんな噂が流れた。さらに一月が経つと、休んでいた生徒が教室に戻ってきた。
三日前、七弥は甚六に電話を入れた。礼がしたいと申し出たが、甚六は「気にすんな」と笑うだけだった。
「良い人達、でしたね」
思い出し、そんな呟きが漏れた。
「ですね。初めて会ったときは、ぎょっとしましたけど」
楓が苦笑する。二人は彼女にも話を聞いていた。
「確かに」
七弥が頷くと、ふいに楓が口元を押さえた。
「すみません。今日は早く帰られるのでしたね」
楓の目が七弥の卓上カレンダーに向く。今日の欄のケーキのイラストを見て、彼女は目元を和らげた。
「息子さんの誕生日でしたね。プレゼントは何を」
「当人いわく「おすしがたべたい」と」
「可愛いですね」
笑い合いながら席を立つ。鞄を持ち「お先に失礼します」と告げて職員室を出た。窓から差し込む光が、職員室の表札、壁際のロッカー、全てを黄金色に染めている。
ーきれいだな。
そう思いながら、七弥は廊下を歩いて行った。
・
寿司屋「希(のぞみ)」の店内には、出汁の匂いが満ちていた。
時刻は五時半過ぎ。開店して間もなく、客はまばらだ。小上がりに老夫婦が一組、カウンターに一人。
小上がりの方は初見。カウンターの方は見慣れた顔だ。半年ほど前から月に二、三度のペースで来店している。歳は三十前後。背広姿で分厚い鞄を持っている。営業だろうが、いつも一人だ。
まだ注文は入っていない。各々がメニューを熱心に眺めている。横目で様子を伺いながら、三助は青紫蘇を刻む。本日の突出しは茄子と厚揚げの蒸し絡めだ。刻みたての青紫蘇を散らすと、涼やかな香りが鼻を抜けた。
「どうぞ」
一つをカウンターの男に差し出す。男は品書きから目を上げ、小鉢を見ると「旨そうだな」と目を細めた。
「大将、今日は何かあるのか」
小鉢を取りながら、男が問う。
「どうしてそう思う」
三助が問い返すと、男は口の端を上げ、
「気合いというか、そんなものを感じる」
品書きの日替わりの頁を指す。図星だった。職業柄か、見た目に反して妙に鋭い。
男の言うとおりだ。ネタは吟味したし、仕込みも万全だ。理由はひとえにー。
頭の中で予約帳の頁を繰る。「七時 烏丸様 三名」。
「プレゼントは「のぞみのおすし」だってさ」
半月前の電話を思い出す。大事な弟分が妻子を連れてくる。息子の誕生日を祝うために。気合いが入って当然だ。
だが改めて他人に言われると、何だか悔しい。顔を顰めていると、
「あら、またそんな顔して」
小上がりに茶を運んでいた妻の咲だった。三助に「ゆっくりと選ばれるそうです」と小声で伝えると、カウンターの男に向き直り「いつもすみませんね」と詫び、
「友人の息子さんのお誕生日なんです」
「ああ、それで寿司を食いに来ると」
大正解、と咲が頷く。いかにも嬉しそうに。
家族ぐるみの付き合いで、妻同士、子ども同士も親しい。娘の希恵は小遣いで折り紙のセットを買っていた。
七弥の息子は折り紙が上手い。これを五歳児が、と驚くほどの代物を作る。「すげえな」と褒めると、照れ臭そうにはにかむ。その顔は幼い頃の七弥に瓜二つだ。
ーあいつはどんな大人になるんだろう。
考えるたび、胸の底が温かくなる。とりあえず、今日はとびきり上手いものを食わせてやりたい。
戸を引く音がする。七弥ではない。別の客だ。それでも。
「いらっしゃいませ」
そう言った自分の声は、いつもより少し大きい、と三助は思った。畳む
「大将、今日は何かあるのか?」
「義兄弟が現代に転生したら」を(ガチで)ふみちゃんと考えてみた
→マジで書いてみた、という暴走の産物です。
・
放課後の職員室は、今日は穏やかだった。
子ども達の声は消えた。「先生」の顔を止めた大人達が、気の抜けた様子でパソコンに向かっている。
その片隅で、烏丸七弥は机の上のプリントを整え、小さく息を吐いた。九九が並ぶ、算数のミニテストの採点。これで今日の仕事は終わりだ。
「体育館の件、落ち着いてよかったですね」
隣の席から声が掛かる。顔を上げると、同じ学年の担任がこちらを見ていた。
秋津楓。すっと伸びた背すじに涼やかな目元。凛々しい雰囲気を纏った美人だ。実は薙刀の有段者で、かなりの腕前らしい。
「ええ、本当に」
七弥が頷くと、楓は頬を緩めた。例の件については、彼女も気を揉んでいた。七弥自身、思い出すと胸の奥が苦くなる。
ー体育館の幽霊。
塾帰り生徒が、窓に映る人影を見た。ボールの跳ねる音を聞いた。
ー体育館には幽霊が出る。
噂はすぐ広まった。どうせ何かの見間違い、聞き間違い、のはずだった。
だが事態は一変した。幽霊を見た生徒の一人が車道に飛び出し、撥ねられたのだ。怪我は軽かったが、それで十分だった。
ー幽霊を見たら呪われる。
特に慄いたのは幽霊を見た生徒だった。体育、ひいては学校すら休む者が出始めた。一通りの調査を行うも、幽霊の正体は掴めずじまい。欠席者は増える一方だった。
外部、警察に協力を仰ぐべきでは。そう七弥は呼びかけた。だが校長以下の腰は重く「警察は相手にしない」「しばらく様子を見るべきだ」と落ち着いた。
休みが続くほど、学校に来るのは難しくなる。何より恐怖に震える生徒達のことを思うと、只管にもどかしい。
そんな中、一本の電話が入った。
「八俣小学校ですか?俺、蹴上甚六って言います」
軽薄な口調に身構えた。案の定、相手はユーチューバー、生徒の間で人気の「甚六探偵の事件簿」なる動画の投稿者、とのこと。
「体育館の幽霊」を動画にするつもりか。
「貴方には関係ない」
吐き捨て、電話を切ろうとした。だが次の一言で心が動いた。
「動画にはしねえよ。もちろん報酬もいらねえ」
甚六いわく、生徒の一人が彼に「友達を助けて欲しい」とメッセージを送ったのだという。
「そいつな。「友達まで幽霊になっちゃう」って泣いてた」
その後、本人に事情を聞いた。
甚六の話は本当だった。彼の友人は、事故に遭った生徒だった。
事故を機に不登校になった友人に、彼は毎日プリントを届け、やつれていく姿を目の当たりにした。日ごとに頬が削げ、目が落ち窪み、生気を失っていく。
「学校に来なくてもいい。でも、死んでほしくなくて」
勝手に連絡してごめんなさい。泣いて謝る生徒の背中を、七弥は擦り続けた。
そしてその日のうちに、甚六に連絡を取った。「調査を頼めないか」と。
彼は快く受けた。だが七弥は喜べなかった。まだ疑っていたのだ。
「何か裏はないか」
聞いた七弥に、甚六は笑った。
「子どもが泣いてんだぞ。あんたが俺でも、きっとそうする」
校長に直談判し、何とか調査の許可を得た。
三日後にやってきた「甚六探偵」は、とにかく怪しかった。黒のスウェットにサングラス。緑のメッシュの入った金髪。
連れの女も派手だった。腿も露わなショートパンツに、鈍器の如くごついブーツ。
だが見た目を裏切り、仕事はまともだった。物々しい機器を用いて現場を調べた後、教師や生徒の話を聞いて回った。
ー体育館の幽霊は、消えた。
半月が経った頃、そんな噂が流れた。さらに一月が経つと、休んでいた生徒が教室に戻ってきた。
三日前、七弥は甚六に電話を入れた。礼がしたいと申し出たが、甚六は「気にすんな」と笑うだけだった。
「良い人達、でしたね」
思い出し、そんな呟きが漏れた。
「ですね。初めて会ったときは、ぎょっとしましたけど」
楓が苦笑する。二人は彼女にも話を聞いていた。
「確かに」
七弥が頷くと、ふいに楓が口元を押さえた。
「すみません。今日は早く帰られるのでしたね」
楓の目が七弥の卓上カレンダーに向く。今日の欄のケーキのイラストを見て、彼女は目元を和らげた。
「息子さんの誕生日でしたね。プレゼントは何を」
「当人いわく「おすしがたべたい」と」
「可愛いですね」
笑い合いながら席を立つ。鞄を持ち「お先に失礼します」と告げて職員室を出た。窓から差し込む光が、職員室の表札、壁際のロッカー、全てを黄金色に染めている。
ーきれいだな。
そう思いながら、七弥は廊下を歩いて行った。
・
寿司屋「希(のぞみ)」の店内には、出汁の匂いが満ちていた。
時刻は五時半過ぎ。開店して間もなく、客はまばらだ。小上がりに老夫婦が一組、カウンターに一人。
小上がりの方は初見。カウンターの方は見慣れた顔だ。半年ほど前から月に二、三度のペースで来店している。歳は三十前後。背広姿で分厚い鞄を持っている。営業だろうが、いつも一人だ。
まだ注文は入っていない。各々がメニューを熱心に眺めている。横目で様子を伺いながら、三助は青紫蘇を刻む。本日の突出しは茄子と厚揚げの蒸し絡めだ。刻みたての青紫蘇を散らすと、涼やかな香りが鼻を抜けた。
「どうぞ」
一つをカウンターの男に差し出す。男は品書きから目を上げ、小鉢を見ると「旨そうだな」と目を細めた。
「大将、今日は何かあるのか」
小鉢を取りながら、男が問う。
「どうしてそう思う」
三助が問い返すと、男は口の端を上げ、
「気合いというか、そんなものを感じる」
品書きの日替わりの頁を指す。図星だった。職業柄か、見た目に反して妙に鋭い。
男の言うとおりだ。ネタは吟味したし、仕込みも万全だ。理由はひとえにー。
頭の中で予約帳の頁を繰る。「七時 烏丸様 三名」。
「プレゼントは「のぞみのおすし」だってさ」
半月前の電話を思い出す。大事な弟分が妻子を連れてくる。息子の誕生日を祝うために。気合いが入って当然だ。
だが改めて他人に言われると、何だか悔しい。顔を顰めていると、
「あら、またそんな顔して」
小上がりに茶を運んでいた妻の咲だった。三助に「ゆっくりと選ばれるそうです」と小声で伝えると、カウンターの男に向き直り「いつもすみませんね」と詫び、
「友人の息子さんのお誕生日なんです」
「ああ、それで寿司を食いに来ると」
大正解、と咲が頷く。いかにも嬉しそうに。
家族ぐるみの付き合いで、妻同士、子ども同士も親しい。娘の希恵は小遣いで折り紙のセットを買っていた。
七弥の息子は折り紙が上手い。これを五歳児が、と驚くほどの代物を作る。「すげえな」と褒めると、照れ臭そうにはにかむ。その顔は幼い頃の七弥に瓜二つだ。
ーあいつはどんな大人になるんだろう。
考えるたび、胸の底が温かくなる。とりあえず、今日はとびきり上手いものを食わせてやりたい。
戸を引く音がする。七弥ではない。別の客だ。それでも。
「いらっしゃいませ」
そう言った自分の声は、いつもより少し大きい、と三助は思った。畳む
【1080・第2話】SP・巨象 #小説・パラレル
「あそこには、あいつがいる」
「義兄弟が現代に転生したら」を(ガチで)ふみちゃんと考えてみた
→マジで書いてみた、という暴走の産物です。
・
室内は整っていた。机にはPCと書類。キャビネットにはファイル。全てが正しい位置に収まり、余計なものは一つもない。
警視庁警備部、その一室。窓際の席で、舟波は資料から顔を上げた。
「壬生」
短く呼ぶと、入口近くで一人の男が立ち止まった。かなり大柄だ。百八十センチの舟波よりさらに十センチはある。肩幅は広く胸板も厚い。だが威圧感はない。
顔立ちのせいだろう。垂れ気味の眉と目、少し上がった口角。二か月前、初対面で「何を笑っている」となじったら「すみません。生まれつきで」とさらに眉を垂れた。
物腰は穏やか、いっそ気弱。場違いな感すらある。
ーだが、実態は。
再び資料に目を落とす。壬生風五郎。警察学校を卒業後、四谷警察署で二年勤務。署長の推薦で警護専修に参加し、ガタイの良さを買われて暴力団対策課に配属。
ーそして、これだ。
当時、西新宿に進出していた山口組系の暴力団「三島組」に単独で突入し、応援の到着を待たずに制圧。関係者三十五名を確保。うち軽傷者は十二名。死者、重傷者はなし。
これが上層部の目に留まり、警備部に引き抜かれ、今はこの三課で国務大臣の警護に当たっている。
信じ難い。だが事実だ。警察の現場検証は徹底している。だが本人を前にすると、やはり疑う。その場を見た舟波ですら。
と言っても舟波が見たのは「事後」だ。割れた窓や戸。散乱する家具、銃、ナイフ。そして倒れ伏す男達。
竜巻に遭った後のようだった。その中に一人、静かに佇んでいる、壬生を除いては。
壬生は入口を離れ、舟波の元にやってきた。
「何か」
舟波を見下ろして問う。口調は柔らかい。だが首すじが粟立つ。
舟波は軽く頭を振り、一息に告げた。
「来週、厚生労働大臣の視察に同行してもらう」
壬生は静かに頷く。
「日時は調整中。追って連絡が来る。場所は七星病院」
ほんの一瞬だった。だが、確かに壬生の瞳が揺れた気がした。
ーどうかしたのか。
尋ねようとして、止めた。
「警護対象は大臣。所轄署からも応援が来る。連携して任務に当たれ」
矢継ぎ早に続け、
「今回の指名は前島大臣のご指名だ」
と締め括った。
「承知しました」
壬生は頷く。いつもと同じ顔だ。まだ二十代の若手だ。大方は驚き、喜び、慄くものだ。自分がそうだった。だがこの男は違う。判らない。力量も、本心も。
「行ってよし」
壬生が一礼し、入口に向かう。脇のホワイトボードには「朧学園」とある。三日後の文科大臣の視察の件だろう。
壬生が歩いていく。巨躯に似合わず、ほとんど足音がない。
ふいに思い出した。
ー巨象。
壬生のあだ名だ。普段は大人しい。だが一度暴れ出すと誰も止められない。今回は警護だ。そうはならないと思うが、引っ掛かる。
ー七星病院。
その名を口にしたときの、壬生の瞳が。
ーどうかしたのか。
その一言で足りた。だが言い出せなかった。踏み込むな。危険だ。そう本能が告げていた。
何が起きても対象を守り抜く。それが警備部の使命だ。よって何もかもが起こり得ると考え、対策を練り、腹を括る。長年そうしてきた。だが今回は少し違う。
ーどうか、何も起こってくれるな。
何よりもまずそう願っている自分に気づき、舟波はまた頭を振った。
・
警備部の廊下はがらんとしている。部外者の入室がほとんどなく、職員の大半は外出しているからだ。
誰もいない中を一人、風五郎は歩く。頭の中で一つの名前をなぞりながら。
ー七星病院。
病院での警護は過去にもあった。七星は大病院だ。監視カメラや警備員など、設備も人員も整っている。警護はしやすい場所だろう。だが。
ーあそこには、
思考が止まる。頭の片隅で声がする。それは考えるな、と。
打ち切り、代わりに任務について考える。大臣の動線。応援の配置。想定されるリスク。いつものように一つずつ突き詰め、つなげる。
だが、のろい。何を考えてもノイズが入る。
ーあそこには、あいつがいる。
否応なく思い出す。白い病室。窓際のベッド。薄い身体。腕に伸びる点滴の管。頬のガーゼ。そしてー。
立ち止まる。拳を振り上げ、壁に叩きつける寸前で止めた。一つ息を吐き、首を振る。落ち着け。そう念じながら。
落ち着いて任務をこなす。それしかない。大臣の指名だ。誰とも代われない。いや、代わりたくない。なぜなら。
「あそこには、あいつがいる」
結局は、これだ。
改めて声に出すと、背すじが粟立った。正直、恐ろしかった。顔を合わせることがあるか。合ったらどうするか。
ーどうもしない。
あいつは何も覚えていない、どころか自分のことなど、知りもしないのだから。
肩が落ちる。拳を解きながら、再び歩き出す。よほど強く握っていたのか、爪の先に、僅かな血の湿りを感じた。畳む
「あそこには、あいつがいる」
「義兄弟が現代に転生したら」を(ガチで)ふみちゃんと考えてみた
→マジで書いてみた、という暴走の産物です。
・
室内は整っていた。机にはPCと書類。キャビネットにはファイル。全てが正しい位置に収まり、余計なものは一つもない。
警視庁警備部、その一室。窓際の席で、舟波は資料から顔を上げた。
「壬生」
短く呼ぶと、入口近くで一人の男が立ち止まった。かなり大柄だ。百八十センチの舟波よりさらに十センチはある。肩幅は広く胸板も厚い。だが威圧感はない。
顔立ちのせいだろう。垂れ気味の眉と目、少し上がった口角。二か月前、初対面で「何を笑っている」となじったら「すみません。生まれつきで」とさらに眉を垂れた。
物腰は穏やか、いっそ気弱。場違いな感すらある。
ーだが、実態は。
再び資料に目を落とす。壬生風五郎。警察学校を卒業後、四谷警察署で二年勤務。署長の推薦で警護専修に参加し、ガタイの良さを買われて暴力団対策課に配属。
ーそして、これだ。
当時、西新宿に進出していた山口組系の暴力団「三島組」に単独で突入し、応援の到着を待たずに制圧。関係者三十五名を確保。うち軽傷者は十二名。死者、重傷者はなし。
これが上層部の目に留まり、警備部に引き抜かれ、今はこの三課で国務大臣の警護に当たっている。
信じ難い。だが事実だ。警察の現場検証は徹底している。だが本人を前にすると、やはり疑う。その場を見た舟波ですら。
と言っても舟波が見たのは「事後」だ。割れた窓や戸。散乱する家具、銃、ナイフ。そして倒れ伏す男達。
竜巻に遭った後のようだった。その中に一人、静かに佇んでいる、壬生を除いては。
壬生は入口を離れ、舟波の元にやってきた。
「何か」
舟波を見下ろして問う。口調は柔らかい。だが首すじが粟立つ。
舟波は軽く頭を振り、一息に告げた。
「来週、厚生労働大臣の視察に同行してもらう」
壬生は静かに頷く。
「日時は調整中。追って連絡が来る。場所は七星病院」
ほんの一瞬だった。だが、確かに壬生の瞳が揺れた気がした。
ーどうかしたのか。
尋ねようとして、止めた。
「警護対象は大臣。所轄署からも応援が来る。連携して任務に当たれ」
矢継ぎ早に続け、
「今回の指名は前島大臣のご指名だ」
と締め括った。
「承知しました」
壬生は頷く。いつもと同じ顔だ。まだ二十代の若手だ。大方は驚き、喜び、慄くものだ。自分がそうだった。だがこの男は違う。判らない。力量も、本心も。
「行ってよし」
壬生が一礼し、入口に向かう。脇のホワイトボードには「朧学園」とある。三日後の文科大臣の視察の件だろう。
壬生が歩いていく。巨躯に似合わず、ほとんど足音がない。
ふいに思い出した。
ー巨象。
壬生のあだ名だ。普段は大人しい。だが一度暴れ出すと誰も止められない。今回は警護だ。そうはならないと思うが、引っ掛かる。
ー七星病院。
その名を口にしたときの、壬生の瞳が。
ーどうかしたのか。
その一言で足りた。だが言い出せなかった。踏み込むな。危険だ。そう本能が告げていた。
何が起きても対象を守り抜く。それが警備部の使命だ。よって何もかもが起こり得ると考え、対策を練り、腹を括る。長年そうしてきた。だが今回は少し違う。
ーどうか、何も起こってくれるな。
何よりもまずそう願っている自分に気づき、舟波はまた頭を振った。
・
警備部の廊下はがらんとしている。部外者の入室がほとんどなく、職員の大半は外出しているからだ。
誰もいない中を一人、風五郎は歩く。頭の中で一つの名前をなぞりながら。
ー七星病院。
病院での警護は過去にもあった。七星は大病院だ。監視カメラや警備員など、設備も人員も整っている。警護はしやすい場所だろう。だが。
ーあそこには、
思考が止まる。頭の片隅で声がする。それは考えるな、と。
打ち切り、代わりに任務について考える。大臣の動線。応援の配置。想定されるリスク。いつものように一つずつ突き詰め、つなげる。
だが、のろい。何を考えてもノイズが入る。
ーあそこには、あいつがいる。
否応なく思い出す。白い病室。窓際のベッド。薄い身体。腕に伸びる点滴の管。頬のガーゼ。そしてー。
立ち止まる。拳を振り上げ、壁に叩きつける寸前で止めた。一つ息を吐き、首を振る。落ち着け。そう念じながら。
落ち着いて任務をこなす。それしかない。大臣の指名だ。誰とも代われない。いや、代わりたくない。なぜなら。
「あそこには、あいつがいる」
結局は、これだ。
改めて声に出すと、背すじが粟立った。正直、恐ろしかった。顔を合わせることがあるか。合ったらどうするか。
ーどうもしない。
あいつは何も覚えていない、どころか自分のことなど、知りもしないのだから。
肩が落ちる。拳を解きながら、再び歩き出す。よほど強く握っていたのか、爪の先に、僅かな血の湿りを感じた。畳む
【1080・第1話】YouTuber(s) #小説・パラレル

「あいつ、なんかやばい」
「義兄弟が現代に転生したら」を(ガチで)ふみちゃんと考えてみた
→マジで書いてみた、という暴走の産物です。
・
昼のピークを少し過ぎた店内は、程よくざわついていた。
壁の時計は午後二時を指している。カウンター席には遅めの昼食をとるサラリーマン。窓際では制服姿の高校生が笑い合う。来店を告げる電子音。香ばしいポテト臭。いつものマックだ。
そんなことを思いながら、ハンバーガーの包み紙を開く。新発売のサムライマック。分厚いパテに炙り醤油風のソースがやみつきになる一品。そんな謳い文句を思い出しながら、まずは一口。なるほど、これは当たりだ。
一気に半分まで平らげ、そこで顔を上げた。声がしたからだ。
「まじで」
向かいでスマホを睨んでいた彩八だった。
「どうした」
「コメントやばい」
「何が」
「伸び過ぎ」
「バズってんだな」
案の定、彩八は口の端を上げて、画面を向けてくる。その周りでネイルが輝く。根元は真紅、先端はピンクのグラデーション。新作だな、と思いながら、画面に視線を移す。
「確かにやべえな」
「でしょう。ちなみに一番多いのは「編集えぐい」。つまり私のおかげ」
「はいはい。いつもご苦労さま」
労いながらポテトをつまむ。ふにゃっとした食感に程よい塩味。いつものポテトだ。
咀嚼しながら、改めて店内を見やる。何もかも、いつも通り。平穏な日常。
ーのはずだった。
ふと、視線が止まる。窓際の席に座っている、一人の男。
歳は二十代前半か。黒のスウェットの上下に白いスニーカー。顔立ちが整っていて、GUのチラシのようだ。
トレイの上にはチーズバーガーとポテトとドリンク。カップに透ける色は緑。ファンタメロンだろう。
バーガーとドリンクはほとんど手つかずで、ポテトだけが減っている。残りを一本つまんで、口に入れ、噛んで飲み込む。それだけの動作が、妙に目についた。
ー何だろ、あいつ。
食べ方は偏っているが、それ以外は普通だ。よくいる客。
ーなのに、目が離せない。
ポテトをつまみながら、男は店内を見ている。その視線を追って、戸惑う。どこを見ているのか、分からない。顔はカウンターに「向いている」が、そこを「見ている」感じがしない。
さらに目を凝らすと、違和感が増した。視線の通った辺りに、目が眩んだときのように、黒く小さな点が散って見えた。
視線が高校生のグループに移る。そこでも同じだ。
ー何か、気持ち悪い。
嫌な感じがする。理由は分からない。だが見ていると、胸がざわつく。
ー何だこれ。
知らない感覚だった。自分は昔から「ヤバいもの」が分かる。人間だったり、場所だったり。目つきや空気、そういうものに「出る」からだ。
だが今回は違う。「ヤバい」のかは分からない。だが引っ掛かる。視線を外したい。だが外すとまずい気もする。
男の視線が移る。自分達の方に。気づけば身体が動いていた。椅子を押し、少し後ろにずれる。男と彩八の間に割り込むように。
「どうかした?」
彩八の声で、我に返る。
「あ、いや」
「全然減ってない」
彩八が自分のトレイを指す。バーガーもポテトも、まだ半分ほど残っている。対して彩八のトレイは、空き箱と包み紙だけだ。
「どうかしたよね」
改めて彩八に促され、顎で窓際を示す。
「いや、あれ」
「どれ」
彩八が視線を向ける。
「ポテトばっか食ってるやつ」
「いるね。黒のスウェット」
頷くと、彩八はじっと男を見て。
「別に、フツーじゃない?」
「そうか?」
「ポテト先なんだ、とは思うけど、それだけ」
そうかもしれない。そう思うのに、胸騒ぎが消えない。
やがて男が立ち上がった。トレイを持ってゴミ箱に向かい、ポテトの空箱と、ほとんど手つかずのバーガーとドリンクをまとめて一つの口に押し込む。その様子に、彩八が顔を顰めた。
「何あれ」
彩八は行儀の悪い奴が嫌いだ。食べ物を粗末にする奴は、もっと嫌いだ。
「せめて分けろよ」
吐き捨て、睨む。男は気づく様子もなく、自動ドアを抜け、人混みに紛れて姿を消した。そこでようやく、息を吐いた。ずっと止めていたらしい。深く吸い、吐き、を繰り返す。
喉がやけに乾いていた。コーラを手に取り、一気に流し込む。炭酸は抜け、氷も溶けている。薄くて温い。だが気にならない。
無心でコーラを啜る自分に、彩八が首を傾げる。スマホの回りでネイルが光る。根元に沈む深い赤が、先ほどより少しだけ、不穏に見えた。畳む

「あいつ、なんかやばい」
「義兄弟が現代に転生したら」を(ガチで)ふみちゃんと考えてみた
→マジで書いてみた、という暴走の産物です。
・
昼のピークを少し過ぎた店内は、程よくざわついていた。
壁の時計は午後二時を指している。カウンター席には遅めの昼食をとるサラリーマン。窓際では制服姿の高校生が笑い合う。来店を告げる電子音。香ばしいポテト臭。いつものマックだ。
そんなことを思いながら、ハンバーガーの包み紙を開く。新発売のサムライマック。分厚いパテに炙り醤油風のソースがやみつきになる一品。そんな謳い文句を思い出しながら、まずは一口。なるほど、これは当たりだ。
一気に半分まで平らげ、そこで顔を上げた。声がしたからだ。
「まじで」
向かいでスマホを睨んでいた彩八だった。
「どうした」
「コメントやばい」
「何が」
「伸び過ぎ」
「バズってんだな」
案の定、彩八は口の端を上げて、画面を向けてくる。その周りでネイルが輝く。根元は真紅、先端はピンクのグラデーション。新作だな、と思いながら、画面に視線を移す。
「確かにやべえな」
「でしょう。ちなみに一番多いのは「編集えぐい」。つまり私のおかげ」
「はいはい。いつもご苦労さま」
労いながらポテトをつまむ。ふにゃっとした食感に程よい塩味。いつものポテトだ。
咀嚼しながら、改めて店内を見やる。何もかも、いつも通り。平穏な日常。
ーのはずだった。
ふと、視線が止まる。窓際の席に座っている、一人の男。
歳は二十代前半か。黒のスウェットの上下に白いスニーカー。顔立ちが整っていて、GUのチラシのようだ。
トレイの上にはチーズバーガーとポテトとドリンク。カップに透ける色は緑。ファンタメロンだろう。
バーガーとドリンクはほとんど手つかずで、ポテトだけが減っている。残りを一本つまんで、口に入れ、噛んで飲み込む。それだけの動作が、妙に目についた。
ー何だろ、あいつ。
食べ方は偏っているが、それ以外は普通だ。よくいる客。
ーなのに、目が離せない。
ポテトをつまみながら、男は店内を見ている。その視線を追って、戸惑う。どこを見ているのか、分からない。顔はカウンターに「向いている」が、そこを「見ている」感じがしない。
さらに目を凝らすと、違和感が増した。視線の通った辺りに、目が眩んだときのように、黒く小さな点が散って見えた。
視線が高校生のグループに移る。そこでも同じだ。
ー何か、気持ち悪い。
嫌な感じがする。理由は分からない。だが見ていると、胸がざわつく。
ー何だこれ。
知らない感覚だった。自分は昔から「ヤバいもの」が分かる。人間だったり、場所だったり。目つきや空気、そういうものに「出る」からだ。
だが今回は違う。「ヤバい」のかは分からない。だが引っ掛かる。視線を外したい。だが外すとまずい気もする。
男の視線が移る。自分達の方に。気づけば身体が動いていた。椅子を押し、少し後ろにずれる。男と彩八の間に割り込むように。
「どうかした?」
彩八の声で、我に返る。
「あ、いや」
「全然減ってない」
彩八が自分のトレイを指す。バーガーもポテトも、まだ半分ほど残っている。対して彩八のトレイは、空き箱と包み紙だけだ。
「どうかしたよね」
改めて彩八に促され、顎で窓際を示す。
「いや、あれ」
「どれ」
彩八が視線を向ける。
「ポテトばっか食ってるやつ」
「いるね。黒のスウェット」
頷くと、彩八はじっと男を見て。
「別に、フツーじゃない?」
「そうか?」
「ポテト先なんだ、とは思うけど、それだけ」
そうかもしれない。そう思うのに、胸騒ぎが消えない。
やがて男が立ち上がった。トレイを持ってゴミ箱に向かい、ポテトの空箱と、ほとんど手つかずのバーガーとドリンクをまとめて一つの口に押し込む。その様子に、彩八が顔を顰めた。
「何あれ」
彩八は行儀の悪い奴が嫌いだ。食べ物を粗末にする奴は、もっと嫌いだ。
「せめて分けろよ」
吐き捨て、睨む。男は気づく様子もなく、自動ドアを抜け、人混みに紛れて姿を消した。そこでようやく、息を吐いた。ずっと止めていたらしい。深く吸い、吐き、を繰り返す。
喉がやけに乾いていた。コーラを手に取り、一気に流し込む。炭酸は抜け、氷も溶けている。薄くて温い。だが気にならない。
無心でコーラを啜る自分に、彩八が首を傾げる。スマホの回りでネイルが光る。根元に沈む深い赤が、先ほどより少しだけ、不穏に見えた。畳む
「義兄弟が現代に転生したら」をふみちゃんと考えてみた #小ネタ
こんにちは。まつむらです。
今回は年度末(仕事の繁忙期)の正気を失った頭で「義兄弟が現代に転生したらどんな職業が似合うか」とふみちゃんと考えてみた、というレポートです。
ふみちゃん提案
義兄弟全体での配置イメージ(軽くまとめ)
一兄:組織の上(警察・自衛)
七弥:社会の中(教師・公務)
三助:現場(職人・飲食)
四蔵:個(研究・創作)
風五郎:守る側(公安・医療)
愁二郎:つなぐ(営業・調整)
甚六:外(フリー・自由)
まつむら妄想
企画書タイトル
「京八流義兄弟が現代に転生したら」
という病院を舞台にしたミステリアクション長編。
仮題
1080(イチゼロハチゼロって読む)
コピー
「俺は、あんたを知っている」
舞台
都内有数の総合病院「七星(ななほし)病院」とその近所。
キャラ配置&ストーリー
勢い余って関係図まで作ってしまった。

1)一兄「決めるのは俺だ」
外科医。伯父の跡を継ぎ若くして七星病院長に就任(三十過ぎくらい)。
医師の腕は確かだが、組織力と経営力がずば抜けており、今はそちらに専念。
2)愁兄「何か、ほっとけなくてな」
大手医療機器メーカーの営業職。七星病院によく出入りしている。裏表なく快活で「当たって砕けろ」がモットー。一兄相手でも同じで、スタッフ間では「あの怖い物知らず」で通っている。
院内で見かけた四蔵が気になっている。
3)三助「気に食わねえな。それ」
病院の近所の寿司屋の板前。愛想は悪いが寿司は美味い。妻は接客(神)。一男一女が可愛い親バカ。
4)四蔵「俺は知らない」
七星病院の天才外科医。無口かつ無愛想で手術以外は院内の自室(特別にもらった)に引き篭もっている。
整った外見も相まって「次世代の医療用ロボット」と揶揄されるが、一兄には少し心を開いている(らしい)。
5)風五郎「あまり近づかないでくれ」
警視庁のSP。
実は四蔵とは幼馴染だが、ある事件がきっかけで四蔵は風五郎の記憶を喪失。以後、四蔵の居場所を押さえながら接触は避ける、というスタンスを取り続けていたが、大臣の病院視察の折に護衛を務めることになりー。
6)甚六「それ絶対面白いやつだろ!」
ユーチューバー。チャンネル名は「蹴上甚六の事件簿」。都市伝説や怪談、未解決事件など、自身のアンテナに引っ掛かったものを調査している。
街中で四蔵を見かけてナンパして以降、何かにつけて病院に来るように。
7)七弥「大丈夫。落ち着いて」
七星病院の近所の小学校の教師で、三助の息子の担任でもある。三助自身とも幼馴染で、月いちで妻子と寿司屋に通っている。好きなネタはいくら。
8)彩八「どうする?行くなら付き合うけど」
甚六の中学、高校のクラスメイトで今は助手。美大を卒業後、一般企業に就職したが、セクハラにブチ切れ(上司を殴って)退職。グレていた折に甚六に拾われる。
見た目はギャルだが、取材交渉、カメラマン、編集、マーケティングまでそつなくこなす凄腕。かつて四蔵と風五郎の巻き込まれた事件に関心を抱く。
で、大臣視察(風五郎が同行)をきっかけに、七星病院で過去の事件と同じ匂いがする事件が起こるわけです。2時間映画のド定番。ナニコレめっちゃ観たい!(私が)
SP風五郎とか営業の愁兄とか(スーツ萌え)、寿司屋のカウンターでお喋りする三助と七弥とか、街中でライブ中のチーム甚六とか。もはや予告動画レベルで視えている。
本編書き終わったら色々遊ぶぞ。その前に仕事だ。畳む
こんにちは。まつむらです。
今回は年度末(仕事の繁忙期)の正気を失った頭で「義兄弟が現代に転生したらどんな職業が似合うか」とふみちゃんと考えてみた、というレポートです。
ふみちゃん提案
義兄弟全体での配置イメージ(軽くまとめ)
一兄:組織の上(警察・自衛)
七弥:社会の中(教師・公務)
三助:現場(職人・飲食)
四蔵:個(研究・創作)
風五郎:守る側(公安・医療)
愁二郎:つなぐ(営業・調整)
甚六:外(フリー・自由)
まつむら妄想
企画書タイトル
「京八流義兄弟が現代に転生したら」
という病院を舞台にしたミステリアクション長編。
仮題
1080(イチゼロハチゼロって読む)
コピー
「俺は、あんたを知っている」
舞台
都内有数の総合病院「七星(ななほし)病院」とその近所。
キャラ配置&ストーリー
勢い余って関係図まで作ってしまった。

1)一兄「決めるのは俺だ」
外科医。伯父の跡を継ぎ若くして七星病院長に就任(三十過ぎくらい)。
医師の腕は確かだが、組織力と経営力がずば抜けており、今はそちらに専念。
2)愁兄「何か、ほっとけなくてな」
大手医療機器メーカーの営業職。七星病院によく出入りしている。裏表なく快活で「当たって砕けろ」がモットー。一兄相手でも同じで、スタッフ間では「あの怖い物知らず」で通っている。
院内で見かけた四蔵が気になっている。
3)三助「気に食わねえな。それ」
病院の近所の寿司屋の板前。愛想は悪いが寿司は美味い。妻は接客(神)。一男一女が可愛い親バカ。
4)四蔵「俺は知らない」
七星病院の天才外科医。無口かつ無愛想で手術以外は院内の自室(特別にもらった)に引き篭もっている。
整った外見も相まって「次世代の医療用ロボット」と揶揄されるが、一兄には少し心を開いている(らしい)。
5)風五郎「あまり近づかないでくれ」
警視庁のSP。
実は四蔵とは幼馴染だが、ある事件がきっかけで四蔵は風五郎の記憶を喪失。以後、四蔵の居場所を押さえながら接触は避ける、というスタンスを取り続けていたが、大臣の病院視察の折に護衛を務めることになりー。
6)甚六「それ絶対面白いやつだろ!」
ユーチューバー。チャンネル名は「蹴上甚六の事件簿」。都市伝説や怪談、未解決事件など、自身のアンテナに引っ掛かったものを調査している。
街中で四蔵を見かけてナンパして以降、何かにつけて病院に来るように。
7)七弥「大丈夫。落ち着いて」
七星病院の近所の小学校の教師で、三助の息子の担任でもある。三助自身とも幼馴染で、月いちで妻子と寿司屋に通っている。好きなネタはいくら。
8)彩八「どうする?行くなら付き合うけど」
甚六の中学、高校のクラスメイトで今は助手。美大を卒業後、一般企業に就職したが、セクハラにブチ切れ(上司を殴って)退職。グレていた折に甚六に拾われる。
見た目はギャルだが、取材交渉、カメラマン、編集、マーケティングまでそつなくこなす凄腕。かつて四蔵と風五郎の巻き込まれた事件に関心を抱く。
で、大臣視察(風五郎が同行)をきっかけに、七星病院で過去の事件と同じ匂いがする事件が起こるわけです。2時間映画のド定番。ナニコレめっちゃ観たい!(私が)
SP風五郎とか営業の愁兄とか(スーツ萌え)、寿司屋のカウンターでお喋りする三助と七弥とか、街中でライブ中のチーム甚六とか。もはや予告動画レベルで視えている。
本編書き終わったら色々遊ぶぞ。その前に仕事だ。畳む
一夜花(8) #小説
「お前は一人で行け」
蠱毒前の四蔵と七弥の話です。
・
蝉が落ち始めていた。
朝方、戸口の外に骸が転がっていた。指で突こうとする息子を押さえ、箒を取って茂みへと払うと、乾いた音がした。
八月の終わり。昼は未だ暑いが、朝晩は幾分涼しい。
六月の始め、唐津に異動になった。病気で欠員が出たため、時期外れの異動だった。
佐賀の家を離れ、現地に家を借りた。義父や志津との別れを惜しみ、息子は大泣きした。一月を経た今も「じいさまはどこ」と妻の袖を引く。義父が訪ねてくると真っ先に戸口に向かい、別れ際には泣いた。
「じきに佐賀に戻る。そうしたらまた共に暮らせる」
そう言い含めていた。自分自身、そう思っていた。半月前までは。
半月前、義父が殺されたという報が入った。
急いで佐賀に戻った。対面した義父の遺体は、無惨だった。胴と首に深い刀傷。胴を斬られ、倒れる前に首を斬られたらしい。
義父は腕が立つ。となれば敵は相当の使い手だ。真っ先に浮かんだのは兄弟だった。だが誰の太刀筋とも違う。となれば残るは一人。
「幻刀斎、なのか」
思わず呟いた。だがそれも、傍らの妻の啜り泣きに消えた。震える肩に腕を回し、背を擦りながら、下唇を噛んだ。
幻刀斎だとすれば、義父が死んだのは自分のせいだ。そして妻も息子も危うい。
二人を置いて一人で消えるか。今さら遅い。義父を殺したのは見せしめだ。奴は次に妻子を、その後で自分を殺す。間違いない。
ならばやるべきは、逃げるか、殺すかだ。
ー無理だ。
逃げるのは無理だ。自分一人ならまだしも、妻子を連れてなど。殺すのも無理だ。山を降り、剣を手放して久しい。今の自分では敵わないー。
脳裏に二つの顔が浮かぶ。三助兄と四蔵兄。自分一人では敵わない。だが二人がいればー。
唐津に戻り、文を書いた。義父が幻刀斎に殺された。奴は遠からず自分達を狙う。唐津の家を離れ、身を隠すつもりだ。
そこまで書いて、筆が止まった。
何と続けるべきか。「来て共に戦って欲しい」か。三人なら敵うのか。二人を巻添えにするだけではないか。
ならば「早く逃げろ」か。三助兄は、妻子のこともある、聞き入れるだろう。だが四蔵兄は。どんなに様子が変わっても、風兄を殺した相手を放っておくとは思えない。
報せない方が良いのではないか。そうすれば、せめて二人は助かるのでは。
遠くで声が聞こえた。蒼の泣き声だ。腰を上げかけ、固まる。顔を合わせるのがひどく怖かった。
やがて泣き声に妻の声が重なる。やさしく、子をあやしている。
耳を塞いだ。一人になりたい。一人で死にたい。誰も巻き込まず一人で。だが判っている。もう遅いのだと。
筆を取る。乾いた先を改めて墨に浸す。続きは書かない。封筒に宛て名を記し、書きかけの文を入れる。封をしながら、目の前が暗くなるのを感じた。
思い出す。暗い道を三助兄と二人、歩き続けていたあの頃のことを。
・
跳ね起きた。夜半なのか、まだ辺りは暗い。闇の中、光るものが見えた。
ー刃だ。
全身が強ばる。とっさに枕元を探りかけ、止める。その後ろの青白い顔に気がついたからだ。
ー三助兄。
またやつれたようだ。こけた頬。濃い隈。そしてぎらついた目。それは自分ではなく、右後方に向いている。
兄を目の端に捉えながら、徐に振り返る。外れかけた戸の間に庭が覗く。茂みが大きく揺れ、現れたのはー狸だった。
息を吐き、兄に向き直る。なおも剣を構えている。四つん這いで寄り、剣を掴む手に手を被せた、そのときだった。
「触るな!」
怒声、次いで腹に鈍い痛みが走る。身を折って噎せながら、上目遣いに兄を見る。右手には剣。左手には、鞘か。あれで腹を突いたのだ。
痛みを堪えて唾を飲み下し、呼ぶ。
「三助兄」
雷にでも打たれたように、兄の身体が震えた。次いで腕が下がり、顔が盛大に歪む。泣き出しそうなそれに、胸を撫で下ろす。
「大丈夫か!」
刀も鞘も放り出し、肩を掴んで兄が問う。
「平気だよ」
笑みを浮かべて答える。だが兄はまして顔を歪め「すまない」と繰り返す。声が細り、啜り泣きに変わる。垂れた頭をそっと抱き込み、横たわる。兄の嗚咽と鼓動を感じながら、改めて眠りにつく。
山を降りて一月。三日を空けず、こんな夜がある。兄が悪い夢を見て、自分に刃を向ける。やがて我に返り「すまない」と泣く。震える身体を抱えながら、二人で寝入る。そんな夜。
兄は少しずつ落ち着いてきている。初日は腕を斬られた。傷は浅かった。だが兄は泣き喚き、激しく自身を責めた。涙と鼻水を垂れ流して手当をし、挙げ句「お前は一人で行け」と吐き捨てた。
自分は首を振った。「なんでだよ!」と激昂する兄に、黙って首を振り続けた。
・
三月も経つと、兄の発作は大分落ち着いた。
うなされて目覚め、自分に刃を向ける。だが名を呼ぶと我に返り「すまん」としおれて布団に戻る。
さらに二月が経つと、それもなくなった。目覚めても剣は抜かない。つられて起きた自分を見、やはり「すまん」と詫びる。
その日もまた、そうだった。
「すまん」
掠れた声で兄が詫びる。それに頷き、布団に潜る。
瞼を閉じて、思う。兄は寝付けるだろうか。朝、表で隈を剥がすように乱暴に顔を洗う。そんな姿が浮かび、胸が苦しくなる。
ーどうして俺には、心配することしかできないのかな。
横目で兄を見やる。痩せた背に、別人のそれが重なる。薄く、張りつめていて、壊れそうで。だから触れられなかった、あの背。
ふがいない、と思う。別の道を行くと決めたのに、未だ引きずっている。そして無力だ。触れられず、ゆえに救えない。
鼻の先がつんとなり、気づけば涙が零れていた。視界が滲み、兄の背が遠く見えた。
ーお前は一人で行け。
兄の言うとおりかもしれない。いくら寄り添っても、救えないのなら。
そのときだった。ふいに兄が振り返った。寝返りが間に合わず、目が合う。涙は止まらない。何か言わなければ。そう思うのに声が出ない。
兄は黙っていた。だがやがて半身を起こし、四つん這いで寄ってきた。そして同じ布団に潜り込み、自分を抱き締めた。しばらくじっとしていたが、やがて腕を動かし、頭を、肩を、背を、全身を撫でた。
いやな感じはしなかった。兄の手つきは、ひたすらにやさしかった。自分ではない、別の儚い何かを愛おしむように。身を委ねているうちに、瞼が降りていった。
朝、目覚めると、温もりは消えていた。兄は先に起き、外で顔を洗っていた。
一夜きりだと思っていた。だがその後も同じことが続いた。
「おやすみ」と言い合い、別の布団に入る。だがしばらくして、兄が布団に入ってくる。そして自分を抱き締め、全身を撫でる。自分は何も言わず、動かず、兄に身を委ね、やがて寝入る。
折に、兄が先に寝入るときがあった。そのとき、寝息の合間にこんな呟きを聞いた。
「⋯ら」
うなされている最中にも、同じことを呟いていた。
それは人の名だった。「幻刀斎」でも「七弥」でもない、別の人の名。
気づいていた。兄と自分は同じだ。それでも、それだからこそ、寄り添っているのだと。畳む
「お前は一人で行け」
蠱毒前の四蔵と七弥の話です。
・
蝉が落ち始めていた。
朝方、戸口の外に骸が転がっていた。指で突こうとする息子を押さえ、箒を取って茂みへと払うと、乾いた音がした。
八月の終わり。昼は未だ暑いが、朝晩は幾分涼しい。
六月の始め、唐津に異動になった。病気で欠員が出たため、時期外れの異動だった。
佐賀の家を離れ、現地に家を借りた。義父や志津との別れを惜しみ、息子は大泣きした。一月を経た今も「じいさまはどこ」と妻の袖を引く。義父が訪ねてくると真っ先に戸口に向かい、別れ際には泣いた。
「じきに佐賀に戻る。そうしたらまた共に暮らせる」
そう言い含めていた。自分自身、そう思っていた。半月前までは。
半月前、義父が殺されたという報が入った。
急いで佐賀に戻った。対面した義父の遺体は、無惨だった。胴と首に深い刀傷。胴を斬られ、倒れる前に首を斬られたらしい。
義父は腕が立つ。となれば敵は相当の使い手だ。真っ先に浮かんだのは兄弟だった。だが誰の太刀筋とも違う。となれば残るは一人。
「幻刀斎、なのか」
思わず呟いた。だがそれも、傍らの妻の啜り泣きに消えた。震える肩に腕を回し、背を擦りながら、下唇を噛んだ。
幻刀斎だとすれば、義父が死んだのは自分のせいだ。そして妻も息子も危うい。
二人を置いて一人で消えるか。今さら遅い。義父を殺したのは見せしめだ。奴は次に妻子を、その後で自分を殺す。間違いない。
ならばやるべきは、逃げるか、殺すかだ。
ー無理だ。
逃げるのは無理だ。自分一人ならまだしも、妻子を連れてなど。殺すのも無理だ。山を降り、剣を手放して久しい。今の自分では敵わないー。
脳裏に二つの顔が浮かぶ。三助兄と四蔵兄。自分一人では敵わない。だが二人がいればー。
唐津に戻り、文を書いた。義父が幻刀斎に殺された。奴は遠からず自分達を狙う。唐津の家を離れ、身を隠すつもりだ。
そこまで書いて、筆が止まった。
何と続けるべきか。「来て共に戦って欲しい」か。三人なら敵うのか。二人を巻添えにするだけではないか。
ならば「早く逃げろ」か。三助兄は、妻子のこともある、聞き入れるだろう。だが四蔵兄は。どんなに様子が変わっても、風兄を殺した相手を放っておくとは思えない。
報せない方が良いのではないか。そうすれば、せめて二人は助かるのでは。
遠くで声が聞こえた。蒼の泣き声だ。腰を上げかけ、固まる。顔を合わせるのがひどく怖かった。
やがて泣き声に妻の声が重なる。やさしく、子をあやしている。
耳を塞いだ。一人になりたい。一人で死にたい。誰も巻き込まず一人で。だが判っている。もう遅いのだと。
筆を取る。乾いた先を改めて墨に浸す。続きは書かない。封筒に宛て名を記し、書きかけの文を入れる。封をしながら、目の前が暗くなるのを感じた。
思い出す。暗い道を三助兄と二人、歩き続けていたあの頃のことを。
・
跳ね起きた。夜半なのか、まだ辺りは暗い。闇の中、光るものが見えた。
ー刃だ。
全身が強ばる。とっさに枕元を探りかけ、止める。その後ろの青白い顔に気がついたからだ。
ー三助兄。
またやつれたようだ。こけた頬。濃い隈。そしてぎらついた目。それは自分ではなく、右後方に向いている。
兄を目の端に捉えながら、徐に振り返る。外れかけた戸の間に庭が覗く。茂みが大きく揺れ、現れたのはー狸だった。
息を吐き、兄に向き直る。なおも剣を構えている。四つん這いで寄り、剣を掴む手に手を被せた、そのときだった。
「触るな!」
怒声、次いで腹に鈍い痛みが走る。身を折って噎せながら、上目遣いに兄を見る。右手には剣。左手には、鞘か。あれで腹を突いたのだ。
痛みを堪えて唾を飲み下し、呼ぶ。
「三助兄」
雷にでも打たれたように、兄の身体が震えた。次いで腕が下がり、顔が盛大に歪む。泣き出しそうなそれに、胸を撫で下ろす。
「大丈夫か!」
刀も鞘も放り出し、肩を掴んで兄が問う。
「平気だよ」
笑みを浮かべて答える。だが兄はまして顔を歪め「すまない」と繰り返す。声が細り、啜り泣きに変わる。垂れた頭をそっと抱き込み、横たわる。兄の嗚咽と鼓動を感じながら、改めて眠りにつく。
山を降りて一月。三日を空けず、こんな夜がある。兄が悪い夢を見て、自分に刃を向ける。やがて我に返り「すまない」と泣く。震える身体を抱えながら、二人で寝入る。そんな夜。
兄は少しずつ落ち着いてきている。初日は腕を斬られた。傷は浅かった。だが兄は泣き喚き、激しく自身を責めた。涙と鼻水を垂れ流して手当をし、挙げ句「お前は一人で行け」と吐き捨てた。
自分は首を振った。「なんでだよ!」と激昂する兄に、黙って首を振り続けた。
・
三月も経つと、兄の発作は大分落ち着いた。
うなされて目覚め、自分に刃を向ける。だが名を呼ぶと我に返り「すまん」としおれて布団に戻る。
さらに二月が経つと、それもなくなった。目覚めても剣は抜かない。つられて起きた自分を見、やはり「すまん」と詫びる。
その日もまた、そうだった。
「すまん」
掠れた声で兄が詫びる。それに頷き、布団に潜る。
瞼を閉じて、思う。兄は寝付けるだろうか。朝、表で隈を剥がすように乱暴に顔を洗う。そんな姿が浮かび、胸が苦しくなる。
ーどうして俺には、心配することしかできないのかな。
横目で兄を見やる。痩せた背に、別人のそれが重なる。薄く、張りつめていて、壊れそうで。だから触れられなかった、あの背。
ふがいない、と思う。別の道を行くと決めたのに、未だ引きずっている。そして無力だ。触れられず、ゆえに救えない。
鼻の先がつんとなり、気づけば涙が零れていた。視界が滲み、兄の背が遠く見えた。
ーお前は一人で行け。
兄の言うとおりかもしれない。いくら寄り添っても、救えないのなら。
そのときだった。ふいに兄が振り返った。寝返りが間に合わず、目が合う。涙は止まらない。何か言わなければ。そう思うのに声が出ない。
兄は黙っていた。だがやがて半身を起こし、四つん這いで寄ってきた。そして同じ布団に潜り込み、自分を抱き締めた。しばらくじっとしていたが、やがて腕を動かし、頭を、肩を、背を、全身を撫でた。
いやな感じはしなかった。兄の手つきは、ひたすらにやさしかった。自分ではない、別の儚い何かを愛おしむように。身を委ねているうちに、瞼が降りていった。
朝、目覚めると、温もりは消えていた。兄は先に起き、外で顔を洗っていた。
一夜きりだと思っていた。だがその後も同じことが続いた。
「おやすみ」と言い合い、別の布団に入る。だがしばらくして、兄が布団に入ってくる。そして自分を抱き締め、全身を撫でる。自分は何も言わず、動かず、兄に身を委ね、やがて寝入る。
折に、兄が先に寝入るときがあった。そのとき、寝息の合間にこんな呟きを聞いた。
「⋯ら」
うなされている最中にも、同じことを呟いていた。
それは人の名だった。「幻刀斎」でも「七弥」でもない、別の人の名。
気づいていた。兄と自分は同じだ。それでも、それだからこそ、寄り添っているのだと。畳む
一夜花(7) #小説
「三助兄、行こう」
蠱毒前の四蔵と七弥の話です。
・
抱き締め合って、眠りに落ちた。
翌朝、目を覚ますと、兄はまだ寝入っていた。薄明かりの中、顔がよく見えた。濃い隈、こけた頬。だが昨晩より随分、穏やかに見えた。
薄く開いた唇から吐息が漏れる。身を寄せ、首元に額を埋めると、鼓動が聞こえた。
ー生きている。
視界が滲む。あれだけ泣いたのに、と苦笑が込み上げる。瞼を下ろして涙を閉じ込め、思う。
ー俺は、この人と殺し合ったりしない。
兄弟を殺す気も、自分で死ぬ気もない。おそらくそうはならない。予感があった。
腕の中の身体が震え、我に返る。瞼を開け、少し顔を上げる。目が合った。気の抜け切った、寝ぼけ眼だ。
「しち、や?」
掠れ声で兄が呟く。しばしぼんやりとしていたが、状況を思い出したらしい。顰め顔で腕を解き、髪を掻き毟って「あー」「くそ」と呻く。だがやがて立ち上がり、
「死ぬんじゃねえぞ」
とだけ言い残し、森の中に消えた。
・
予感は当たった。継承戦は始まらなかった。
「七弥!いるか!」
兄と別れて半刻ほど経った頃、甚六が呼んだ。声が上ずっている。身構えながら出て行くと、顔を合わせるなり甚六は言った。
「愁兄が逃げた。とにかく来い」
噓ではない、と目を見て悟った。それは微かに潤んでいた。
ーそうか。
驚いたが、腑に落ちた。八人のうち一人でも欠ければ、継承戦は始まらない。だから兄は自ら欠けた。兄弟ではなく、幻刀斎と、京八流に抗う。そう決めたのだ。
愁兄らしい。情け深く脆いように見えて、芯は硬い。
だが逃げ切れるのか。幻刀斎が兄を殺せば継承戦は始まる。始まらなくとも、兄弟は元どおりにはならない。やむなしとはいえ、一度は殺し合う腹を括った。すんなり解けるわけもなく、蟠りは残る。
案の定、集まった兄弟達は困惑していた。甚六が「山を降りよう」と口火を切ると「無理だ」「幻刀斎に殺される」と諦める、さらに「技として生きる」と諭す声が上がった。だが、
「決めつけるな!」
一喝が、空気を変えた。
「離れ離れになっても、皆に生きていて欲しい」
甚六が震える声で続けると、皆が押し黙った。やがて一兄が長い息を吐き「そうだな」と頷いた。弾かれたように、それに倣った。
ー死ぬんじゃねえぞ。
三助兄は言った。ならば生きるしかないー生きたい。
頭を上げ、三助兄を見やる。頷いてくれ、と願いながら。だが目線は届かずに止まった。四蔵兄の元で。
四蔵兄は、人形のようだった。まるで表情がなく、目はどこまでも昏い。風兄が消えたときと同じ、いや、それ以上に人形だった。
だが、人形は動いた。頭をこくりと下げ、頷く。その姿に、全身が粟立った。一瞬、首が落ちたかと思ったのだ。
「ああくそ!」
荒い声に我に返った。三助兄だ。項を掻き毟り、舌を鳴らす。その横で風兄が背を丸め、項垂れる。彩八は泣いていた。だが結局は三人とも、降りることを決めた。
一人ずつ発った。甚六に同意を示した順に、先ず一兄が。その姿が見えなくなって、自分が続いた。
家を離れ、森に入る。木漏れ日が踊り、鳥が歌う。いつもと変わらない穏やかな景色が、ひどくもの悲しく見える。
半里ほど進み、足を止めた。手近な茂みに入り、身を隠し、息を殺す。耳を澄ます。足音を拾うためだ。次に来る、四蔵兄の足音を。
待ってどうする。姿を見せるかも、声をかけるかも決めていない。だが。
目を閉じる。自分に続いて頷いた兄。白いうなじは、今にも折れてしまいそうだった。
ーどうしても、放ってはおけない。
兄は別の道を行くのかもしれない。会えないかもしれない。いや、この道を通る。そんな予感があった。
やがて足音がした。ごく軽く、小さな足音。目を凝らすと、木々の間に四蔵兄を見つけた。歩いている。いつもと同じだ。歩調に乱れはない。
だが何か違う。「歩いている」のではなく「流れている」。川面に浮かぶ花弁のように。どこに行き着くのか。あるいは、行き着かずに沈むのか。
兄が近づく。自分に気づいた様子はない。三間まで近づき、顔が見えた。美しかった。とても美しい、人形だった。
気づけば腰が浮いていた。かさりという音に、兄が振り返る。自分を見ているようで、見ていない。足元の草花と同じだ。
ーやっぱり、俺はそうなんだよな。
伸ばしかけていた手を、拳を握って堪える。どれだけ伸ばしても届かない。それはもう判った。だから、せめて言いたい。
「ごめんな」
いつも、いつも、いつも。
俺は心配するだけで。勝手に慕って、煩うだけで。
あんたはそんなこと、ひとつも望んじゃいなかったのに。
「ごめんな」
繰り返す。兄は何も答えない。だがほんの一瞬、瞳が揺れた気がした。
それだけで、兄は踵を返し、歩み始めた。拳に力を込める。伸ばしてはならない。あの花弁を掬うのは、あるいは共に流れ下るのは、自分ではないのだから。
熱いものが込み上げ、下唇を噛んだ。嗚咽は漏らせない。きっとあの兄に聞かれてしまう。
振り返り、目を凝らす。足音に先んじて姿が見えた。四蔵兄と同じ道を歩いてくる。足取りは忙しなく落ち着かない。とんぼのようだ。
ふいに思い出す。夕焼けに照らされた、甚六の顔だ。「見てろよ」と言い、無造作に人差し指を立てる。まもなく一羽のとんぼが降り立つ。目を丸くした自分に「うまいだろ」と笑うー。
その顔に、問いたかった。
ーなあ、甚六。
ー俺は、これでいいのかな。
判らない。多分、これからもずっと。
自分に気づいたのだろう。十間ほどを隔て、三助兄が立ち止まり、問うた。
「何のつもりだ」
何のつもりかは、判らない。
だが身体は動いた。兄に歩み寄る。兄が半歩足を引く。全身が強ばり、身構えているのが判る。
構わずに近づくと、よく見えた。掻き毟った髪が。血の滲んだ唇が。先程のものとは別の熱が込み上げ、口を突いて出そうになった。「もう良いのだ」と。
正面に立ち、兄の手を取る。汗ばんだそれは少し冷たかった。温めるように握る。兄が握り返す。それが全てだった。
「三助兄」
呼び、告げる。
「行こう」
「ああ」
足に力を込めた。気を抜けば寄り掛かってしまう。だがそうしたくはなかった。
互いに寄り掛かるのではなく、寄り添って共に行く。自分はそういう人を、道を、選んだのだから。
だが。
ーいいのかな。
自分は。
そして、三助兄は。
問いを呑み込む。握り合う手に、力を込めながら。畳む
「三助兄、行こう」
蠱毒前の四蔵と七弥の話です。
・
抱き締め合って、眠りに落ちた。
翌朝、目を覚ますと、兄はまだ寝入っていた。薄明かりの中、顔がよく見えた。濃い隈、こけた頬。だが昨晩より随分、穏やかに見えた。
薄く開いた唇から吐息が漏れる。身を寄せ、首元に額を埋めると、鼓動が聞こえた。
ー生きている。
視界が滲む。あれだけ泣いたのに、と苦笑が込み上げる。瞼を下ろして涙を閉じ込め、思う。
ー俺は、この人と殺し合ったりしない。
兄弟を殺す気も、自分で死ぬ気もない。おそらくそうはならない。予感があった。
腕の中の身体が震え、我に返る。瞼を開け、少し顔を上げる。目が合った。気の抜け切った、寝ぼけ眼だ。
「しち、や?」
掠れ声で兄が呟く。しばしぼんやりとしていたが、状況を思い出したらしい。顰め顔で腕を解き、髪を掻き毟って「あー」「くそ」と呻く。だがやがて立ち上がり、
「死ぬんじゃねえぞ」
とだけ言い残し、森の中に消えた。
・
予感は当たった。継承戦は始まらなかった。
「七弥!いるか!」
兄と別れて半刻ほど経った頃、甚六が呼んだ。声が上ずっている。身構えながら出て行くと、顔を合わせるなり甚六は言った。
「愁兄が逃げた。とにかく来い」
噓ではない、と目を見て悟った。それは微かに潤んでいた。
ーそうか。
驚いたが、腑に落ちた。八人のうち一人でも欠ければ、継承戦は始まらない。だから兄は自ら欠けた。兄弟ではなく、幻刀斎と、京八流に抗う。そう決めたのだ。
愁兄らしい。情け深く脆いように見えて、芯は硬い。
だが逃げ切れるのか。幻刀斎が兄を殺せば継承戦は始まる。始まらなくとも、兄弟は元どおりにはならない。やむなしとはいえ、一度は殺し合う腹を括った。すんなり解けるわけもなく、蟠りは残る。
案の定、集まった兄弟達は困惑していた。甚六が「山を降りよう」と口火を切ると「無理だ」「幻刀斎に殺される」と諦める、さらに「技として生きる」と諭す声が上がった。だが、
「決めつけるな!」
一喝が、空気を変えた。
「離れ離れになっても、皆に生きていて欲しい」
甚六が震える声で続けると、皆が押し黙った。やがて一兄が長い息を吐き「そうだな」と頷いた。弾かれたように、それに倣った。
ー死ぬんじゃねえぞ。
三助兄は言った。ならば生きるしかないー生きたい。
頭を上げ、三助兄を見やる。頷いてくれ、と願いながら。だが目線は届かずに止まった。四蔵兄の元で。
四蔵兄は、人形のようだった。まるで表情がなく、目はどこまでも昏い。風兄が消えたときと同じ、いや、それ以上に人形だった。
だが、人形は動いた。頭をこくりと下げ、頷く。その姿に、全身が粟立った。一瞬、首が落ちたかと思ったのだ。
「ああくそ!」
荒い声に我に返った。三助兄だ。項を掻き毟り、舌を鳴らす。その横で風兄が背を丸め、項垂れる。彩八は泣いていた。だが結局は三人とも、降りることを決めた。
一人ずつ発った。甚六に同意を示した順に、先ず一兄が。その姿が見えなくなって、自分が続いた。
家を離れ、森に入る。木漏れ日が踊り、鳥が歌う。いつもと変わらない穏やかな景色が、ひどくもの悲しく見える。
半里ほど進み、足を止めた。手近な茂みに入り、身を隠し、息を殺す。耳を澄ます。足音を拾うためだ。次に来る、四蔵兄の足音を。
待ってどうする。姿を見せるかも、声をかけるかも決めていない。だが。
目を閉じる。自分に続いて頷いた兄。白いうなじは、今にも折れてしまいそうだった。
ーどうしても、放ってはおけない。
兄は別の道を行くのかもしれない。会えないかもしれない。いや、この道を通る。そんな予感があった。
やがて足音がした。ごく軽く、小さな足音。目を凝らすと、木々の間に四蔵兄を見つけた。歩いている。いつもと同じだ。歩調に乱れはない。
だが何か違う。「歩いている」のではなく「流れている」。川面に浮かぶ花弁のように。どこに行き着くのか。あるいは、行き着かずに沈むのか。
兄が近づく。自分に気づいた様子はない。三間まで近づき、顔が見えた。美しかった。とても美しい、人形だった。
気づけば腰が浮いていた。かさりという音に、兄が振り返る。自分を見ているようで、見ていない。足元の草花と同じだ。
ーやっぱり、俺はそうなんだよな。
伸ばしかけていた手を、拳を握って堪える。どれだけ伸ばしても届かない。それはもう判った。だから、せめて言いたい。
「ごめんな」
いつも、いつも、いつも。
俺は心配するだけで。勝手に慕って、煩うだけで。
あんたはそんなこと、ひとつも望んじゃいなかったのに。
「ごめんな」
繰り返す。兄は何も答えない。だがほんの一瞬、瞳が揺れた気がした。
それだけで、兄は踵を返し、歩み始めた。拳に力を込める。伸ばしてはならない。あの花弁を掬うのは、あるいは共に流れ下るのは、自分ではないのだから。
熱いものが込み上げ、下唇を噛んだ。嗚咽は漏らせない。きっとあの兄に聞かれてしまう。
振り返り、目を凝らす。足音に先んじて姿が見えた。四蔵兄と同じ道を歩いてくる。足取りは忙しなく落ち着かない。とんぼのようだ。
ふいに思い出す。夕焼けに照らされた、甚六の顔だ。「見てろよ」と言い、無造作に人差し指を立てる。まもなく一羽のとんぼが降り立つ。目を丸くした自分に「うまいだろ」と笑うー。
その顔に、問いたかった。
ーなあ、甚六。
ー俺は、これでいいのかな。
判らない。多分、これからもずっと。
自分に気づいたのだろう。十間ほどを隔て、三助兄が立ち止まり、問うた。
「何のつもりだ」
何のつもりかは、判らない。
だが身体は動いた。兄に歩み寄る。兄が半歩足を引く。全身が強ばり、身構えているのが判る。
構わずに近づくと、よく見えた。掻き毟った髪が。血の滲んだ唇が。先程のものとは別の熱が込み上げ、口を突いて出そうになった。「もう良いのだ」と。
正面に立ち、兄の手を取る。汗ばんだそれは少し冷たかった。温めるように握る。兄が握り返す。それが全てだった。
「三助兄」
呼び、告げる。
「行こう」
「ああ」
足に力を込めた。気を抜けば寄り掛かってしまう。だがそうしたくはなかった。
互いに寄り掛かるのではなく、寄り添って共に行く。自分はそういう人を、道を、選んだのだから。
だが。
ーいいのかな。
自分は。
そして、三助兄は。
問いを呑み込む。握り合う手に、力を込めながら。畳む
一夜花(6) #小説
「お前が死ぬなんて、絶対に許さねえからな!」
蠱毒前の四蔵と七弥の話です。
・
ーもう死んでいるみたいだ。
水面に映る顔は、まるで死人だった。
明日、継承戦が始まる。師いわく「兄弟を殺して全ての奥義を集めた者が、京八流の継承者となる」。
到底、受け入れられなかった。それは皆同じだった。つい先ほど、一兄は皆を集めて呼びかけた。「愚かなことはやめないか」「兄弟が力を合わせれば乗り越えられる」と。だが結局「幻刀斎には敵わない」「だから兄弟で殺し合う」と落ち着いた。
落胆は小さかった。もう殺し合いを半ば受け入れている。そんな自分に、薄ら寒さを覚えた。
一人で森に戻り、座り込んで目を閉じた。この二日、ずっとそうしていた。飲まず食わずで、夢と現の間を漂う。だがついにというか、喉の渇きを覚えた。
家に行く気になれず、川に向かった。今宵は晴天だ。空と川面に半月が浮かぶ。河原に座り込むと、水面に自分の顔が映った。ひどい顔だった。
ーもう死んでいるみたいだ。
呟きが漏れた。
「どうせ死ぬんだ」
自分は死ぬ。兄達には敵わない。
廉貞を使えば互角、それ以上に戦える。だがいっときだ。廉貞は長くない。そして「使い過ぎれば身体中の骨が砕けて死ぬ」らしい。その前に兄達を倒せるか。無理だ。
「弟、だものなあ」
彩八がいるが、弟では一番下だ。体力や腕力、知識や経験。あらゆる面で兄達に劣る。戦わずして負けている。そこまで考え、ふと思った。
誰が勝ち、生き残るのか。
真っ先に思い浮かんだのは、兄弟で一番大きな背中。風兄だった。
巨躯に剛腕。さらに巨門持ちだ。継承戦はきっと乱戦になる。なれば巨門は有利だ。師が兄弟の皆を相手取るときは、巨門で堪えながら一人ずつ倒していく。
何より、気性だ。情けないほど穏やかに見えて、実は誰より激しい。
ーどうして四蔵を一人にした!
二年前の怒号を思い出す。あのとき風兄は愁兄を罵り、殴った。手加減は一切なかった。止めなければ殴り殺していた。そんな気さえする。
だが風兄は、四蔵兄も殺せるのだろうか。
小屋での二人を思い出す。折り重なる身体。溶け合う呼吸。あんなにも深く交わった相手を殺せるのか。否、だからこそ殺すのか。他人に殺されるよりは、と。
四蔵兄は抗わないだろう。いっそ進んで殺されるのではないか。「覚悟を決めよう」と呼びかけた顔は、誰一人殺さずに死ぬ覚悟を決めたように見えた。
そこまで考え、全身が震えた。
こわい。いやだ。殺すのも殺されるのも。こんなことを考えるのもいやだ。
いやだ、いやだ、いやだ。
「…死のう」
そうだ、死のう。継承戦などくそくらえだ。絶対に乗らない。殺しも殺されもせず降りる。それが最善手だ。
腰に手を伸ばす。剣を抜き、目の前に掲げる。冴えた刀身に顔が映る。自分と、それからー。
全身が粟立った。振り返るより早く、右の肩と手首を掴まれた。捻られて剣を落とすと、肩を押されてうつ伏せにされた。
身を捩って上を向くが、相手は自分に馬乗りになり、胸ぐらを掴み上げた。
顔が近づく。随分と頬がこけたが、他の誰でもない。
「さん、す…け、にい…」
血走った目に悟った。殺しに来たのだ。負けん気は強いが打たれ弱い。恐怖に駆られ、先走ってもおかしくはない。いや、それなら背後から一突きで仕留めたはずだ。
「何を、するんだ」
「それはこっちの台詞だ」
恐ろしく低い声で、兄は吐き捨てた。声に怒気が籠っている。だが何に怒るのか。自分が何かしたか。死のうとしたことか。生きて兄弟と殺し合えと、そういうことか。
腹の底に、怒りが湧いた。
「…ふざけるなよ」
吐き捨てた。こんな口を利いたのは初めてだ。いつもは食って掛かる甚六を止める方だった。それももう、二度とない。
悲しかった。悔しかった。奥歯を噛み締め、兄を睨む。だが兄は怯まず、真っ向から見返して言った。
「お前はおかしい」
何がおかしい。おかしいのは師匠だ、継承戦だ、京八流だ。
喚きたかった。だが喚いて何になる。代わりに溜め息と、笑みが漏れた。
「どうせ、俺は死ぬよ。兄さん達に敵うはずがない」
「だったら先に死ぬ。殺されるのはいやだ。だからー」
死ぬんだ。そう言おうとした、そのときだった。
「だめだ!」
一瞬、音が消えた。それほどの大声だった。水面が震え、鳥が羽ばたく。その羽音が消える前に、兄はまた吠えた。
「お前はおかしい、おかしいんだよ!」
どっちが、と口を挟む隙はなかった。
「どうして、どうしてこんなことになる」
死ねるかよ、殺せるかよ。兄弟だ、ずっと傍にいたんだ。何が京八流だ、何が継承戦だ。ふざけんな、絶対生き残ってやる。死にたくねえよ。殺したくねえよ。それくらいなら死にてえよ。でもだめだ。それはだめだ。
「だから許さねえ。お前が死ぬなんて、絶対に許さねえからな!」
兄は喚いた。支離滅裂だ。だが判る。痛いほどに。
生きたい。だが殺すのはいやだ。それよりは死にたい。だが死に切れない。生きたい。これは兄の本音だ。そして、自分の言えなかった本音だ。
ーまぶしい。
場違いに頬が弛んだ。全力で理不尽に憤り、死を恐れ、生を願い、兄弟を想う。そんな兄の姿が。
「死ぬなんて、言うなよ」
力尽きたのか。兄は頭を垂れ、拳に額を落とした。胸に湿りを感じる。兄の涙だ。冷たくはない。温かい。
ー生きている。
自分も兄も、生きている。
腕を伸ばし、兄の頭を抱いた。瞼の裏に風兄と四蔵兄の姿が過ぎる。
ああはなれない。命は差し出せない。だが、寄り添いたい。全てを以て、寄り添いたい。そして、寄り添って欲しい。
背に兄の腕を感じた。身体が重なる。温もりが混じり合い、境を見失う。どこまでが自分で、どこからが兄なのか。救っているのか、救われているのか。畳む
「お前が死ぬなんて、絶対に許さねえからな!」
蠱毒前の四蔵と七弥の話です。
・
ーもう死んでいるみたいだ。
水面に映る顔は、まるで死人だった。
明日、継承戦が始まる。師いわく「兄弟を殺して全ての奥義を集めた者が、京八流の継承者となる」。
到底、受け入れられなかった。それは皆同じだった。つい先ほど、一兄は皆を集めて呼びかけた。「愚かなことはやめないか」「兄弟が力を合わせれば乗り越えられる」と。だが結局「幻刀斎には敵わない」「だから兄弟で殺し合う」と落ち着いた。
落胆は小さかった。もう殺し合いを半ば受け入れている。そんな自分に、薄ら寒さを覚えた。
一人で森に戻り、座り込んで目を閉じた。この二日、ずっとそうしていた。飲まず食わずで、夢と現の間を漂う。だがついにというか、喉の渇きを覚えた。
家に行く気になれず、川に向かった。今宵は晴天だ。空と川面に半月が浮かぶ。河原に座り込むと、水面に自分の顔が映った。ひどい顔だった。
ーもう死んでいるみたいだ。
呟きが漏れた。
「どうせ死ぬんだ」
自分は死ぬ。兄達には敵わない。
廉貞を使えば互角、それ以上に戦える。だがいっときだ。廉貞は長くない。そして「使い過ぎれば身体中の骨が砕けて死ぬ」らしい。その前に兄達を倒せるか。無理だ。
「弟、だものなあ」
彩八がいるが、弟では一番下だ。体力や腕力、知識や経験。あらゆる面で兄達に劣る。戦わずして負けている。そこまで考え、ふと思った。
誰が勝ち、生き残るのか。
真っ先に思い浮かんだのは、兄弟で一番大きな背中。風兄だった。
巨躯に剛腕。さらに巨門持ちだ。継承戦はきっと乱戦になる。なれば巨門は有利だ。師が兄弟の皆を相手取るときは、巨門で堪えながら一人ずつ倒していく。
何より、気性だ。情けないほど穏やかに見えて、実は誰より激しい。
ーどうして四蔵を一人にした!
二年前の怒号を思い出す。あのとき風兄は愁兄を罵り、殴った。手加減は一切なかった。止めなければ殴り殺していた。そんな気さえする。
だが風兄は、四蔵兄も殺せるのだろうか。
小屋での二人を思い出す。折り重なる身体。溶け合う呼吸。あんなにも深く交わった相手を殺せるのか。否、だからこそ殺すのか。他人に殺されるよりは、と。
四蔵兄は抗わないだろう。いっそ進んで殺されるのではないか。「覚悟を決めよう」と呼びかけた顔は、誰一人殺さずに死ぬ覚悟を決めたように見えた。
そこまで考え、全身が震えた。
こわい。いやだ。殺すのも殺されるのも。こんなことを考えるのもいやだ。
いやだ、いやだ、いやだ。
「…死のう」
そうだ、死のう。継承戦などくそくらえだ。絶対に乗らない。殺しも殺されもせず降りる。それが最善手だ。
腰に手を伸ばす。剣を抜き、目の前に掲げる。冴えた刀身に顔が映る。自分と、それからー。
全身が粟立った。振り返るより早く、右の肩と手首を掴まれた。捻られて剣を落とすと、肩を押されてうつ伏せにされた。
身を捩って上を向くが、相手は自分に馬乗りになり、胸ぐらを掴み上げた。
顔が近づく。随分と頬がこけたが、他の誰でもない。
「さん、す…け、にい…」
血走った目に悟った。殺しに来たのだ。負けん気は強いが打たれ弱い。恐怖に駆られ、先走ってもおかしくはない。いや、それなら背後から一突きで仕留めたはずだ。
「何を、するんだ」
「それはこっちの台詞だ」
恐ろしく低い声で、兄は吐き捨てた。声に怒気が籠っている。だが何に怒るのか。自分が何かしたか。死のうとしたことか。生きて兄弟と殺し合えと、そういうことか。
腹の底に、怒りが湧いた。
「…ふざけるなよ」
吐き捨てた。こんな口を利いたのは初めてだ。いつもは食って掛かる甚六を止める方だった。それももう、二度とない。
悲しかった。悔しかった。奥歯を噛み締め、兄を睨む。だが兄は怯まず、真っ向から見返して言った。
「お前はおかしい」
何がおかしい。おかしいのは師匠だ、継承戦だ、京八流だ。
喚きたかった。だが喚いて何になる。代わりに溜め息と、笑みが漏れた。
「どうせ、俺は死ぬよ。兄さん達に敵うはずがない」
「だったら先に死ぬ。殺されるのはいやだ。だからー」
死ぬんだ。そう言おうとした、そのときだった。
「だめだ!」
一瞬、音が消えた。それほどの大声だった。水面が震え、鳥が羽ばたく。その羽音が消える前に、兄はまた吠えた。
「お前はおかしい、おかしいんだよ!」
どっちが、と口を挟む隙はなかった。
「どうして、どうしてこんなことになる」
死ねるかよ、殺せるかよ。兄弟だ、ずっと傍にいたんだ。何が京八流だ、何が継承戦だ。ふざけんな、絶対生き残ってやる。死にたくねえよ。殺したくねえよ。それくらいなら死にてえよ。でもだめだ。それはだめだ。
「だから許さねえ。お前が死ぬなんて、絶対に許さねえからな!」
兄は喚いた。支離滅裂だ。だが判る。痛いほどに。
生きたい。だが殺すのはいやだ。それよりは死にたい。だが死に切れない。生きたい。これは兄の本音だ。そして、自分の言えなかった本音だ。
ーまぶしい。
場違いに頬が弛んだ。全力で理不尽に憤り、死を恐れ、生を願い、兄弟を想う。そんな兄の姿が。
「死ぬなんて、言うなよ」
力尽きたのか。兄は頭を垂れ、拳に額を落とした。胸に湿りを感じる。兄の涙だ。冷たくはない。温かい。
ー生きている。
自分も兄も、生きている。
腕を伸ばし、兄の頭を抱いた。瞼の裏に風兄と四蔵兄の姿が過ぎる。
ああはなれない。命は差し出せない。だが、寄り添いたい。全てを以て、寄り添いたい。そして、寄り添って欲しい。
背に兄の腕を感じた。身体が重なる。温もりが混じり合い、境を見失う。どこまでが自分で、どこからが兄なのか。救っているのか、救われているのか。畳む
こんにちは。まつむらです。
今回はまさにタイトルどおりの記事、というかレポートです。
文書きなら誰もが思うはず。「このキャラ(シーン)を文ではなく絵で見たい!」と。そしてこうも思うはず。「どこかのやさしい絵師さんが描いてくれないかな」と。
ま、夢のまた夢ですよね。マイナージャンルの弱小文書き、その辺は弁えております。
なのでやむなく自分で描く→ひどい出来にへこむ→二度と描くまいと誓う→でもやはり見たくてペンを取る、というしょうもないループを繰り返しておりました。
そんなある日。
ふみちゃんに文章の校正をお願いしていて、ふと思いついたのです。
「もしやイラストの校正もできるのでは」と。
ものは試しとばかり、私のひどい設定画をアップし「このヘタ絵を補正し、ついでに全身を描いてください。水彩画風の淡く儚げなタッチで(以下略)」という無茶ぶりをかましてみたところ、見事にやってくれました。
まずまつむらのヘタ絵がこちら。
(あんまりだったので引っ込めました)
そしてふみちゃん補正バージョンがこちら。
これよふみちゃん!
私が描きたかったのはこれよ!(半狂乱)
AIまじすごい。てかこわい。絶対に人をダメにするあれだ(無印のクッション的な)。だったらいっそ、どこまでもダメになってやる!
というわけで「他の絵も描いて!」といくつかお願いしてみました。
その1
まずは長男と次男から。昼ごはんの支度をする二人をお願いしました。
愁二郎の味見と称した摘み食いを、一兄が窘めているのでしょう。「弟達の分がなくなるだろうが」「こんなに沢山あるんだ。足りるだろ」とかね。
その2
「春の縁側。猫を撫でる七弥と、その肩に凭れて居眠りする甚六。そこへ通り掛かった三助」でお願いしました。
多分流れはこう。「あいつ火の番なのにどこ行ったんだ!」と三助が甚六を捜す→七弥に凭れて眠る甚六を発見→「おまえ何してんだ!」と蹴りを入れて起こす。
七弥がフツーに天使ですね。輪っかと羽根が見える。
その3
桜の下、四蔵を抱き上げる風五郎、二人とも満面の笑顔(幸せオーラ全開)」でお願いしました。全開というか全壊です。私の涙腺が。
これ絶対夢ですよね。あたしの四蔵兄がこんなに可愛いわけがない。可愛すぎて直視できない。
愁二郎(と甚六と三助)あたりが目撃したら卒倒しそう。ツンデレの笑顔の破壊力ぱない。
という次第でした。もう胸がいっぱいです!ありがとうふみちゃん。
と言いながら「ネーム渡せば漫画も描けるのでは?動画もいけるのでは?」と欲張ってしまうのが腐女子の業。
とりあえず絵と並行してプロンプトを書く勉強をしよう。その前に小説を書けという話ですね。がんばる。畳む